第12話 別室に移動した恵里花とオスカー達は………


 恵里花以外の6人が、半分パニックに陥りながらも、果敢に?聖女の資格とやらの内容を、ワルター神官に問いかけ始めた、その頃。


 倒れた神官達や魔法使い達を、窓の無い部屋に運び込んだ恵里花達は、室内をざっと見回していた。

 が、真っ暗で何も見えなかった。


 〔…? あっそっか…窓が無い部屋って

 恵里花が指定したから…………


 外(窓)からの採光が一切無いと

 本当に真っ暗になるわねぇ…………


 この少し湿った感じの匂い………

 土蔵に似ているかも………じゃなくて


 明かりが欲しいわね

 ここの蛍光灯のスイッチってどこかしら?〕


 まだ、異世界に渡ったという感覚がどこか薄い恵里花は、元居た世界の常識でついつい考えてしまう。

 夜目が利くオスカー達は、そんな恵里花の様子から、明かりを求めていると直ぐに気付く。


 だから、恵里花が室内の暗さを照らす為の蛍光灯のスイッチはどこかしら?と考えて、キョロキョロしているのを見て………。


 「今、明るくしますね」


 そうオスカーに声を掛けられた恵里花は、斜め後ろを振り返る。

 そこに、一緒に窓の無い部屋に入室したオスカーが立っているから………。


 そんな恵里花の側で、オスカーが人差し指で小さな円を描く。

 こちらの世界のオスカー達に比べれば、遥かに弱視だが、元いた世界の人よりは、やや夜目が利く恵里花は、オスカーの指の動きをなんとか視ることが出来た。

 ちなみに、オスカー達は通常の夜なら、明かりが無くても昼間と変わらないぐらい普通に見ることができるのだ。


 オスカーが描いた小さな円がポウッと明るく光り輝く。

 ただし、眼に優しい柔らかな光りである。


 小さな光りがオスカーの指先を離れて、スゥーと浮かび上がり、室内の天井へと向かう。

 すると、天井に何箇所もあるライト?が光りだし、室内を明るく照らした。

 オスカーの行動と天井のライトが、魔法だと恵里花は気が付いた。


 〔ふぇぇ~…本物の魔法だわぁ~………

 本当に、ここは異世界なんだって

 わかってしまうわね………はぁ~……


 今のは光り魔法ってことかしら?

 いや、それより……オスカーさんって………

 無詠唱で魔法を使えるのね…騎士様なのに?


 まっ…モロモロ、後で聞けばイイわね

 今は、倒れた人の手当を優先しましょう


 ここは、迅速第一よね……パパだって……


 『初期行動が、生命を左右するんだぞ』


 って…いやだ……逃避行動…………

 とにかく、動けっ…恵里花っ……〕


 オスカーの魔法にちょっと驚いた恵里花だったが、人命優先と思いなおし寝かせる場所を確認することにした。

 明るくなった室内を改めて見回すと、部屋の壁一面に作り付けの棚が有り、その中には大小様々な大きさの箱が置かれていた。


 その他に、白い布らしきものや着物の帯のようなモノも見える。

 下の方の段には、絨毯らしきモノが納められていた。

 そして、棚と反対側の壁には、樽が何個も積み上げてあった。


 〔ぅん? 樽? …ああこの匂い……〕


 その微かに室内に漂う匂いから、恵里花は樽の中身が、たぶんに、ワインだと推察した。


 〔儀式用のモノかしら?

 でも、あれも使えそうね〕


 他には、テーブルとイスもそれぞれ積み上げてあった。

 室内をぐるりと見渡した恵里花は、その部屋が以外に大きいことを認識した。


 〔確かここって神殿って言ってたはずだから……

 儀式とかに必要なモノを雑多に入れてある

 準備部屋ということかしら?


 だったら、倒れた人達の治療? に

 色々と使えそうなモノが有りそうね………

 今必要なのは…………〕


 それらをざっと見渡して、恵里花は、自分の荷物の中身を考える。


 〔この匂いから、察すると樽の中身はワインね


 恵里花が元の世界から

 持ち込んだスーツケースにも

 ワインが結構入っているから…………


 こっちの樽のワインの中に入れて

 薄めるのもイイわね


 オスカーさん達に説明したように…………

 異世界から持ち込んだワインには


 界渡りした時のエネルギーが…

 入っていてもおかしくないしね


 あと《召還》された恵里花が

 持ち込んだモノっていうことで

 プラセボ効果も期待できるしね


 《魔力》切れとか枯渇って良くわからないけど

 貧血みたいな感じなのかしら?


 なんか、甘味が必要みたいなこと言っていたし……


 貧血って、すぅーと意識が暗いところに

 引っ張られるなって感じがしたり

 目眩や吐き気があったり………つーと


 後は…身体を温める…………

 足湯を用意するのも良いわね


 あとは……甘味ってことは………

 糖分を与えればイイっことよね


 アメに、キャラメルに………

 こチョコレートなんかも良いわね


 良かったわぁ…色々と買い込んでて………


 となると、まずは蜂蜜入りのホットワインね

 気付けにもなるだろうし………

 身体も温まって甘味が採れるから………


 それと、あそこに見える絨毯モドキを

 使ってもイイかって聞いてみましょう


 大理石の床に…体調の悪い人間を寝かせたら

 体温を奪われてもっと体調を悪くするもの……


 ここでの常識なんてわからないんだから

 とにかく、聞きながらでも行動よ、恵里花〕


 思考がまとまった恵里花は、側に控えているオスカーを振り返った。




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