第15話 体育祭の出場種目

 中間考査が終わると、学校の中は体育祭ムードに包まれる。

 一般的には体育祭といえば秋のイベントだろうが、うちの学校では5月に行われるのだ。

 秋は文化祭があるのでなかなか日程に余裕がない。冬は気候的に論外だし、7月は期末考査があり、6月は梅雨時期で雨が降る。その結果、この学校では体育祭は5月ということになったらしい。


 その体育祭については、クラス対抗で点数を競うことになる。1組なら、1年1組・2年1組・3年1組が1つのチームというわけだ。

 その上で、生徒は全員、徒競走系の競技に1種目、団体競技に1種目、パフォーマンス系に1種目に出場しなければならない。

 ちなみに、パフォーマンス系というのは、俺もこの学校に来て初めて聞いたのだが、「オリジナル」と「応援」という二つに分かれている。オリジナルというのは、音楽にあわせて集団でダンスのようなパフォーマンスを行い、一方応援は、音楽はなしで、代わりに声を出しながら振り付けを披露するらしい。これを1~3年全員が半分ずつに分かれてやるのだから、どちらも60人くらいの人数でのパフォーマンスということになる。正直、俺には未知の世界すぎてよくわからない。


 朝のSHRで競技一覧が配られ、午後には出場競技を決めることになっている。

 希望通りに行くかどうかはともかく、この昼休みの間には、何に出るか自分の中で希望を決めておかないといけない。


 正直言えば、俺はそこまで運動神経はよくない。

 だから、それを踏まえた上で希望種目を考えないといけない。

 徒競走系については、400mリレーに選ばれるようなことはないから、それについては最初から除外。中距離は一番きつい種目なので、800m走もあり得ない。400m走もやはり距離がきつい。100m走が楽と言えば楽だが、各クラスから速い人が出てきそうで、最下位になりそうでちょっといや。そこで俺の狙いは110mハードルだ。遅かったとしても、ハードルのせいだという言い訳が成り立つ。


「ねぇ、何に出るか決めた?」


 昼食を食べ終えた俺が、競技一覧表を広げて頭を悩ませていると、隣の席の三間坂さんが声をかけてきた。


「今考えてるとこだけど……」


 団体競技とパフォーマンについてはまだ何も考えていない。徒競走系については、自分の中ではほぼ固まっているけど、理由を聞かれた答えが恥ずかしいので、俺はまだ検討中のフリをした。


「じゃあ、二人三脚なんてどう?」


 三間坂さんが意外な提案をしてきた。

 二人三脚は徒競走系競技の一つだが、男女でペアになるという陽キャラ専用競技と思い、ハナから選択肢から外していた。


「二人三脚って女の子とペアだから、ちょっと恥ずかしい気が……」

「私が一ノ瀬さんを一緒に二人三脚に誘うと言っても?」

「――――!?」


 三間坂さん、なんというキラーワードを!?

 一ノ瀬さんと一緒に二人三脚、そんなことができたら今年の体育祭は一生の思い出になるじゃないか!


「でも、僕が二人三脚に立候補しても、うまく一ノ瀬さんと組めるかどうかわからないと思うんだけど?」

「一年生の二人三脚の出場枠は男女2人ずつの4人だけ。ペアを決めるとなったら、きっとグーパーで決めようってことになるよね? 私がそこで絶対にグーを出すって言ったら?」

「――――!?」


 三間坂さん、何という策士!

 ボウリングの時は意思疎通がうまくいかずに俺と三間坂さんが同じチームになってしまったが、こうやって事前に出す手を決めておけばそういったすれ違いが起こることはない!

 さすがだよ、三間坂さん!


「で、どうする? 二人三脚に出る?」

「……そうだね。走るのは別に得意というわけじゃないから、単純な走力勝負にならない競技にしようかとは思ってたんだ。二人三脚は良さそうだ。僕もそうしようかな」


 ん、なんだ、三間坂さん、その顔は。

 生暖かい目というか、なんとも言えない目で見てくるじゃないか。

 もしかして理由を疑われてる? 走力勝負じゃない競技に出ようと思ってたのはホントなんだぞ!


「じゃあ、二人三脚で決まりだね。一ノ瀬さんは私がうまく誘っておくから任せておいて」

「……別に一ノ瀬さんが理由で決めたわけじゃないけど……よろしくお願いします」

「そういえば、パフォーマンスは、オリジナルか応援か決めた?」

「いや、まだだけど……」

「一ノ瀬さんをオリジナルに誘おうと思ってるんだけど、高居君も一緒にオリジナルはどう?」

「――――!」


 パフォーマンスは男女混合で行われる。一ノ瀬さんと一緒にできるかどうかは大きい!


「……実は僕もオリジナルがいいかなって思ってたんだ。オリジナルって名前からも、自分達で作り上げるって感じが出ていていい感じだし」


 む。三間坂さんがまた生暖かい目で見てくる。

 ちょっと、なんなんだよ、その目は!


「そういえば、三間坂さんは、団体競技はどうするの?」


 パフォーマンスと違って、団体競技で男女一緒にできるものはない。徒競走系だって、二人三脚以外は当然ながら男女は別々だ。だから、団体競技で、一ノ瀬さんはもちろん、三間坂さんとだって一緒にできる競技はない。でも、団体競技については正直どれにしていいのか見当もついてないので、三間坂さんの意見も参考くらいにはなる。


「私はこの『お邪魔玉入れ』っていうのにしようかなって思ってるよ」


 この学校の体育祭の団体種目には、ちょっと変わった種目がある。今、三間坂さんが言ったお邪魔玉入れもその一つだ。普通の玉入れではなく、敵チームが棒の先に手のひらの形をしたボードを取り付けたものを持って籠の周りにいて、玉を入れるのを邪魔してくるという代物らしい。

 ほかにも棒倒しではなく棒引きなんていう競技や、台風の目とかいう名前からはどんな競技かさえ想像もつかないような競技まである。


「お邪魔玉入れか、確かに三間坂さんに向いてる気がする」

「ちょっと、それどういう意味?」


 しまった。三間坂さんの視線が痛い。


「いや、深い意味はないよ。……僕もそれにしようかな。なんだか楽しそうに思えてきたし」


 などと適当なことを言ってみたけど、果たしてちゃんとごまかせたのだろうか?

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