第2話 三間坂さんのいいところ

 高校に入って、一ノ瀬さんと同じクラスになってからもう2週間が経つというのに、一ノ瀬さんとはまだ挨拶程度の言葉しか交わしていない

 これは由々しき事態だ。

 もっとも、中学でも女友達なんていなかったので、簡単に女子と仲良くなれるとは思っていない。

 せめて席が近くならばきっかけもあったかもしれないのに……。

 よりによって、隣の席は三間坂さんだし……。


「高居君、今何か失礼なこと考えてなかった?」


 休み時間になんとはなしに一ノ瀬さんを見ていたら、いきなり隣の席から声をかけられてしまった。

 また三間坂さんだ。

 それにしても、なんて勘が鋭いんだ、彼女は。


「か、考えてないよ。むしろ三間坂さんのいいところを考えていたくらいだよ」

「あれ? ホントに私のこと考えてたんだ」

「…………」


 またやられた。

 ここで否定すると、隣の席が三間坂さんだと考えていたことを告白させられかねない。癪に障るが、彼女の思い込みを受け入れるしかない。


「ねぇ、だったらその私のいいところを教えてよ」

「……え?」

「だって、考えてたんでしょ?」


 なんという難問だ。

 これが一ノ瀬さんのいいところだったら、簡単に10個くらい挙げる自信がある。

 だけど、よりによって三間坂さんのいいところを挙げるだって?

 苦手なところならいくらでも挙げられる気がするが、いいところか……。


「いいところを考えてたんでしょ? それとも違うことでも考えてた?」


 まずい。

 ここでちゃんと答えないと、疑われてぼろを出すまで追い込まれかねない。

 なんとか三間坂さんのいいところを探さないと!

 クラスで三番目に可愛いというのは、果たして誉め言葉になるのだろうか?

 ……やっぱり具体的な数字はまずい。

 一番目と二番目は誰だっていう話にだってなりかねない。

 ならば、そのへんをぼかして答えるしかあるまい。


「……クラスの中でも可愛い方なとこ」


 どうだ、この順位を付けない言い方なら変な風に取られることもあるまい!


「へぇ、高居君って私のことそういうふうに見てたんだ」


 ん、待て。なんだその優越感に浸ったような顔は!?

 もしかして、俺が三間坂さんに気があるとでも勘違いしているんじゃないだろうな?

 俺が好きなのは一ノ瀬さんであり、三間坂さんのことは全然好きではない!

 性格とか相性とかまったく無視して、あくまで容姿だけで見て、三番目には可愛いけど、それだけだ!

 そのへんのことをちゃんと言っておかないと、勘違いされそうな気がしてきた。


「三間坂さん、変な意味には取らないでもらいたい。あくまで客観的に、容姿だけで考えたら、クラスの中でも上位だって言いたいだけなんだ」


 こうまではっきり言えば勘違いされないだろう。本当は具体的に三番目だと言いたかったが、そこはさすがに控えた。


「そっか、客観的に見て可愛いって思ってくれてるんだ。まぁ、ありがと」


 ん? ありがとってなんだ? どういう意味だ。

 真意を探ろうと三間坂さんに視線を向けたら、急に反対を向かれてしまった。

 もうこれで話は終わりということだろうか?

 ほかにもいいところを挙げろと言われたらどうしようかと思っていたけど、どうやら助かったようだ。

 変に勘違いされることも防げたし、今回のピンチはなんとか乗り切れた。

 ふぅ、助かったぜ。

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