第33話 『帰還』の正体
俺は目を覚ます。隣では最初に出会った女性が心配そうにこちらを眺めてくれていた。
その様子から察するに……不思議なことに俺は夢の中で夢を見たのだろうか?
そんな馬鹿な?!
人間は夢の中で夢を見れるわけが無い。なのに俺は夢を見ていたのだと?
しかし俺が訳の分からないことに疑念を抱く前に、目の前にいた女性が兜……いやフェイスヘルメットらしきそれを脱ぎ捨てた。
見た目は──20代程、黒髪はしっとりとしていてそして白髪が何本も混じっている。
ロングヘアは片方がちぎれて……不規則な、非日常的な感覚を抱かせてくれる。
白く澄み渡った目をこちらに向け、女性はゆっくりと何かに納得したかのような喋り方で話始める。
「そっか、君根源に接続したんだ……あ〜すごいや君、本当に本当に凄いね!?……全く私達の1億年は何だったのさ…とかいう文句ぐらい言っても良いよね?………はァ……まあ良いけど!」
??根源?1億年?さっきから訳の分からない言葉を投げかけないで欲しい。
「あなた心臓を見てご覧なさい?ほら……ブラックホールがあるでしょ?」
俺は視線を下にそらす。そして本当に胸の中心に存在していたブラックホールに愕然とするのであった。
ふと気がつくと、先程まで遠くにあったはずのブラックホールが消えているではないか。
そして先程のブラックホールに近しいものが俺の心臓の中に鼓動している。───まるでワケが分からない。
「──じゃあ君に全てを、託して私たちは消えるとするね……うんやっと輪廻転生の輪に戻れるよ……」
「あの待ってください?なんの説明もなく、訳の分からない展開ばかりだとさすがに俺も困るんですが……」
「えぇ?……その力を継承したんだから君は全てを理解しているのかと思っていたのに……?うんわかった……じゃあえっと……ンン、……うん君は帰還の本当の名前……それを知らないね?あってる?」
その言葉に俺は軽く頷く。そもそも帰還は帰還だと勝手に思っていたが……よく考えたらどう考えても本来の『戻ってくる』の意味とは異なることまで出来る点をふまえると、何かしらの略称の可能性は存在していると思った。
「帰還……その言葉は実際は『万象回帰・空虚返還』の略称なんだよね……そう、
その言葉を聞いた途端、体の奥底で何かに心が撫でられた気がした。
全てを無へと巻き戻す権能、それがこの『帰還』なのか。
そりゃあ『無に帰す』でものが無へと帰るわけだし……『灰燼に帰す』で燃えさしに戻るわけだ。
「そしてね、『帰還』を使うとあそこにさっきまで見えていたブラックホールに吸い込まれるのよ。どんな事柄、理でさえ……ね。……『帰還』を使うとものを手元に戻せたでしょ?あれブラックホールの引力で戻してるに過ぎないんだよね、うん」
なるほど、そういう事か。
「そしてさ、もうひとつあるんだよ……それが『帰環』……こっちはね……『永劫回帰・滅理円環』って言ってさ……まあ意味はそのままだよねうん。理でさえも全てが等しく無に帰ってくる……全てのものは円環からは逃れられない……そうあのブラックホールが内包する『事象の地平面』、それが『帰環』……つまりはブラックホールそのものを呼び覚ます力の事」
つまり出力が違うということか。だがそれを俺に教えてどうするつもりだ?
さっきから彼女の話はまるでどこかぼやけている。
俺が疑問に思ったことを確かめようとした、その時。
「何でそれをわざわざ?って思ったでしょ……?うんそれはね、『帰還』のちからを手にしたものは皆あの『帰環』に囚われてしまうからなの……あの事象の地平面からは逃れられない、そう……逃れられないはずだったんだよ……うん」
早々とまくし立てるように喋ったあと、目を閉じ……再び開けると。
「だけど……君は違ったのね……君は『帰環』に気に入られた……あの『帰環』と言う根源そのものに触れることが出来た……そして戻ってきた……うんすごいの、すごい……私達ほかの帰還者には叶えられなかったことを君は軽々とやってのけたんだよ」
その言葉には哀愁と後悔、そして何かから開放されたという喜びが混じっていた。
「……私は元々『█████████』という世界で最強の剣士だったんだ……でも24歳になったある日『帰還』を手にして……その力に呑み込まれて自分がいた世界を『無』に変えてしまったんだ……」
呑み込まれて。……その言葉からは途方もない悲しみを感じ、俺は静かに彼女の頭に手を置く。何故か分からないが……そうすべきだと思ったからだ。
「え、えへへっ……うん優しいね君は……ありがとう。……私は勝てなかった、『帰還』という全てを無にするちから……全てを飲み込む円環の力に勝てなかったんだ……私はさ、自分の体から『無』が溢れ出て愛した仲間たちがそれに呑み込まれて消えていくのを見ていることしか出来なかった……うん……そうなんだよ……」
体から溢れ出る『無』?話の筋からするとどうやら『帰還』の力は溢れ出てしまうのか?でも何で俺は無事だったんだ?
『『『──君が魔力を細胞に流し込んだからだよ?そのおかげで虚空の力を最初からゆっくりと身体に馴染ませる事が出来たからね……それの結果君は無を内包出来る素晴らしい容器になったんだよ』』』
どこからともなく答え合わせが行われた。なるほど、俺が幼少からしていた魔力で細胞を強化する鍛錬が役に立っていたのか。──全くあの時の俺に感謝しないとな。
ふと世界がドクン、ドクンド揺れ動くのを感じ、その音に合わせて目の前の女性が消えかかっていくことに気がついた。
「うん、そろそろ私のタイムリミット……いやこの世界に私達敗者が残れる時間が無くなってしまったようね……名残惜しい、口惜しいけれど──」
そう言うと、彼女は何かを俺に手渡す。
「これ、持って行って使って欲しいな……コレは私たちが生きた証……希望の証……存在した証……そして私達の未練を超えてくれた君への感謝の証」
手渡されたのは、事象の地平面の周りを立方体が幾つも回っている不思議な道具。
「──『
そう言い残すと、彼女の肉体はゆっくりと世界に同化して消えていく。
「…………さよなら、名も知らぬ英雄さん……君たちが輪廻転生の輪に戻れることを、俺は心より祈っているぞ」
最後に笑った気がしたが、俺には見えなかった。
◇◇◇◇◇
『君にさっき祝福をあげたからね、それを上手く使いこなしてくれよ?』
少しだけ大人びた声であの少女……いや『帰環』が話しかけてきた。
また祝福か……。俺に何かをさずけるのが流行っているのか?
『んん?あー違うねぇ……私からの祝福はあんな女神如きの外装とは比べ物にならない、本物の……内部からのしっかりとした祝福だからね。全く私の力を存分に振るうといいさ。ああでも……たくさん私に飲み込ませてくれよ?そうすることで私はさらなるちからを君に与えられるようになるからね?ぐふふふふっ……君がどれだけのものを私に食べさせてくれるのか、楽しみにしているよ。さぁ………………………………目覚めの時間だ』
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