第49話

 目当ての本は見つからず、図書館での用事も終わりお互い寮への帰路に着く。


 ノックをして部屋に入るとベッドで横になったままのクローディアが迎えてくれる。


 「おかえり、あの後何かあった?」


 「ううん、目当ての本は無かったよ」


 そういう事じゃないんだなぁとクローディアがボヤいているが、図書館で他に何があると言うのだろう。


 借りて来た本を机の上に置き、寮内での服装は常識の範囲内で自由らしいので着ていて重苦しい制服から着替える。


 「アスカって持ってる服可愛いよね、生地も良さそうだしもしかして良いとこのお嬢さん?」


 「違う違う、これはお下がりをもらっただけだよ」


 着替え終えたら食事までまだ時間があるので自分のベッドに腰を掛ける。仁の奴に注意されたので脚を開いたりしないよう意識しておこう。


 「まぁ良いや、それで本を持って帰ったみたいだけど何の本を借りてきたの?」


 「あれは魔導教本だよ、僕不器用だからイマイチ魔力の制御できなくてさ。『猿でも分かる魔法』って本があったから読んでみようかと」


 「へぇ〜あんたって魔力も持ってるんだ、色々持ってるねぇ」


 「あれ、クローディアも身体能力強化魔法使う魔力持ってるんじゃないの?」


 昨日握手した感じクローディアも前衛職だろうけど、少女で将来前衛職ができるって事は少なくとも身体能力強化魔法が使えるくらいの魔力は持ってるものだと思ってた。


 「いや、ウチは持ってないよ。ただ、ウチはバーク族でさ、男と女で筋力差が無いんだ」


 「バーク族?それって確か東の少数戦闘民族だよね」


 名前だけはボルドーの授業で聞いた事がある。かつて栄華を誇った軍事大国を築いたけど、今じゃほとんどその姿を見なくなったって言ってたはずだ。


 「そうそう、笑っちゃうよね今時戦闘民族なんて。古臭い文化は残ってるし未だにまともに計算もできないバカばっかだしで嫌になって出て来ちゃった」


 「そうかな?かっこいいと思う思うけど」


 特に戦闘民族って響きが良い、こう、男心をくすぐられる。


 「嫌よ、可愛くないし、血生臭いし、汗臭いし、品が無いし、知性が感じられないし――」


 「す、ストップストップ分かった分かったから」


 突然ヒートアップしたクローディアを宥める。これは相当拗らせてるな。


 「でもそれじゃどうして冒険者になろうと思ったの?品や知性はともかく血生臭かったりはすると思うけど」


 「理由は色々あるんだけど、一番は夢のためかな。二番目は『プロテアの学校に受からないと学校には行かせない』って親に言われたから、一番受かりそうだったここを受けただけ」


 せっかく持って生まれた力なら、少しくらい私の人生の役に立って欲しいじゃん?とクローディアが力こぶを見せてくる。


 だが、その腕自体は別に筋骨隆々と言った訳でもなく、普通の腕に見える。


 二人でそんな話をしていると室内に軽いノックの音が響く。


 どうぞ、開いてますよ。と返すと扉が開き、私服に着替えたペロとその相部屋のカンナが廊下に立っている。


 「二人ともそろそろ晩御飯に行かない?みんなを待たせると悪いしさ」


 「あれ、もうそんな時間か。それじゃ僕達も行こうか」


 「そうね、せっかく誘ってくれたんだし」


 支度らしい支度もないのでそのまま二人でペロ達に着いて行くと食堂の入り口は混雑中だったが、常に一方向に人が流れるので意外とスムーズに食事を受け取り席に着く事ができた。


 夕食時と朝食時は各学科の女子全員が集まるため、食堂の中自体はかなり広い。もしかしたらお城の食堂よりも広いかもしれない。


 全員が揃って挨拶するまで食べてはいけないらしいので、他の子が着席するのを待ってる間にペロ達も加えてまた談笑する。


 「朝は説明できなかったけどこの子がカンナ、二人ともよろしくね」


 紹介されたカンナがよろしくと頭を下げると、それにつられてピンクのツインテールが揺れる。正面から見るとペロより背は小さいが、胸元の肉付きも良くかなりアピールしてくる。これも種族の特徴なのだろうか?


 あまりジロジロ見ると失礼だとは思うけれど、頭を下げて来ている以上、下手に目線を逸らすのもおかしいのでとりあえずこちらも頭を下げて対応する。


 「紹介に預かったがワシはカンナ・スミス、気軽にカンナと呼んでくれ」


 「カンナはちょっと変わった話し方するけど、おじいちゃんの話し方がうつっちゃったんだって」


 どうやらカンナのお爺さんの様な話し方は種族特徴とかでは無いみたいだ。


 「そうなんだ、教室でも自己紹介したけどウチはクローディアよ」


 「僕はアスカ、ペロとは日曜学校から一緒なんだ。よろしくね」


 クローディアが自己紹介するのに合わせて僕も済ませる。この辺はクローディアに合わせてれば間違い無いだろう。


 「いや〜それにしても都会の女子おなごはみんな可愛いなぁ。一緒にいてワシが恥ずかしくなってくるわい」


 「え〜そんな事ないよウチも出身は田舎だし、都会出身はアスカとペロちゃんくらいじゃない?」


 「でも僕達もプロテアじゃなくてバンクシアの出身だからね。もっと言えば僕は元々アザレアって村の出身だし、ほんとの意味で都会出身なのはペロくらいかも」


 ペロに視線が集まると恥ずかしそうに縮こまるが、耳や尻尾にすぐ感情が出るあたりがまた可愛らしい。


 「ぜ、全然そんなこと無いよ。私はアスカみたいに可愛く無いし、クローディアみたいに背も高くないし……」


 「全員注目!」


 顔を赤く染めたペロが両手を振って否定していると、寮長の大きな声が通る。


 「みんな揃ったようだから今から食事を始めます。食事を食べられる事を食材や料理してくれた方、親御さんに感謝して好き嫌いせず食べるように!」


 寮長の音頭でみんな一斉に頂きますをして食事が始まる。食事中の会話自体はルールでもマナー違反でも何でも無いので談笑は続き、四人の食事が終わると部屋に戻ることになる。


 「二人ともお風呂は何時頃入る?」


 別れ際、部屋に入る前にペロがそう聞いてくる。寮も二日に一回夜八時から十時までお風呂が用意され、そうで無い日はあったかいタオルなどで体を拭くようになっている。


 二時間の間に寮に住む女子全員がお風呂に入らないといけないので当然混雑が予想され、個人的にはあまり入りたくないが流石にみんなの手前お風呂に入らないと言う訳にもいかない。


 「僕は何時でもいいよ、クローディア次第」


 「ウチは早く寝たいから早めに入りたいかな」


 じゃあ八時になったら用意して誘いに行くから準備して待っててねと言ってペロ達が部屋に帰っていくのを見送ってから、僕達も自分達の部屋で入浴の準備を始める。

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