第6話 動転 2


人狼と狼は同じようで全く別の生き物だ。そもそも括りが違う。狼は動物、人狼は魔物という分け方をされている。その理由は魔物と判断される生物は皆ある器官をもっている。それは魔力感知器官と呼ばれており、魔物だけが持つ特別な器官だ。その器官のおかげで魔力を感じ、操れているのだ。だがその器官の発達は種族、個体間で差があり、それのせいで魔物と相対した人は魔物の強さを推し量りにくい。

人狼は普通の狼と同じように目が悪く、鼻が利く。しかし魔力感知器官は他の種族に比べ比較的に発達している。それがもし人狼の中で頂点に位置する<大喰らい>ならば一体どれほどのレベルになっているのか?それは―――――――――――――――


「なんで……俺が……魔術を……撃つと分かったんだ?痛ぅ!?」


「てめぇが魔術を撃とうとしたのは、俺様の感知で分かり切っていたからなぁ、

まっ、必死こいてあれを撃ったんだろうが残念だったな」


「俺様の感知はほとんど未来予知に近ぇんだよ」


――――――――――――――――――想像を絶するレベルに達しているだろう。


















クソ!全身に激痛が走って今にも意識が飛びそうだ。なんでこんな化け物がこんな時間に!こんな場所に!いるんだよ!


俺は必死に意識を保ちながら、倒れたままここに住んでいるであろう住人たちに向けて叫ぶ。


「今すぐにげろぉ!」


だが周りは静寂に包まれていた。


「無駄だ、てめぇはあの魔術防御があったからまだ意識があるだけで、てめぇの叫び声が聞こえる範囲にいる奴は全員俺様の咆哮で気絶してるか死んでるぜ」


「なっ!?」


「そもそも俺は狙った獲物は逃さない。今回はこの街自体が俺の餌だっただけのことだ。まぁ気にすんなよ、災害みたいなもんだ」


「ざっけんなよぉ!?」


「ふざけていねぇよ。所詮この世は弱肉強食それまでだ。だが俺はお前に興味がわ湧いてきた」


「興味だと?」


「そうだ!正確に言えばてめぇに張ってあった芸術的なまでに洗練された魔術防御、その使い手に興味が湧いてきた。なぜならそいつはここ10年見つからなかった、俺様のメインディッシュにふさわしい力を持っている。強者の肉は皆例外なく美味い。俺様はその肉を!その血を!喰らうために今まで闘争に身を置いてきた。俺様を突き動かすのは単純な食欲!それだけに身を任せ俺様はここまでたどり着いたのさ!」


そうやってまるで演説するかのように喋るフェンリルを見ながら、俺は妙な予感がした。その感覚は次第に強まっていき、そして気づいた。



その瞬間、あり得ないほどの紫煌がフェンリルを焼き焦がす。俺はこの魔力を知っている。つい先ほどこの魔力によって俺は治癒されていた。そして空から舞うように降ってきた、黒髪の白衣の女性が告げる。


「私の生徒に気安く触れるな、駄犬。」


魔法使いが降臨した。



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