ぷるぷるゴマ豆腐 #2
「ダニエル、ちょっとおもしろいものが出来たのよ。試食してみてもらえる?」
「そうそう、面白い食感よね。風味も豊かで」
「ゴマ豆腐っていうの。豆腐って言いながら豆を使ってない面白い料理よ。葛粉の代わりにコーンスターチで固めたんだけどね」
「そもそもトーフを知らない?そうよね……。ま、なんちゃってトンテキとかと一緒。私のネーミングセンスだとでも思っておいて。そういう意味ではこれも『なんちゃってゴマ豆腐』ではあるわね」
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偶々知人とダンジョンで遭遇した。
自分は他人に淡白な性質だと自覚しているが、それでも知った人間が目の前で死ぬのは気分が悪い。
そういう意味では運良く助けられて良かったと思わなくもないし、そんな無様を晒した知人に言いようのない憤りを感じもする。
自分がそれなりに認めている人間だったからだろうか。
ユーフェは言語化出来ないその想いに、小さくため息をつく。
ともあれ。人にエルフの食事を求めてみたのは、その意趣返しみたいなつもりだったのだ。
ユーフェも放浪して長いが、飯屋というのはお決まりのメニューが並ぶものだと知っている。
肉も魚もダメなエルフが食べられるもので出せるものは、野菜をクタクタに煮込んだスープぐらいのもの。それが相場だ。
だからか、妙に自信有りげなニコラとルイーズの様子に違和感を抱いた。そして同時に興味と、ちょっとした期待もあったのだ。
連れてこられたのは随分と整然とした大通り。見たところ大きめの商会が立ち並んでいるようだ。
食事処が入っているには不自然な場所。そこに慣れた様子で足を運ぶ2人について行く。
周りをキョロキョロ見回したりはしない。そんな真似は自分の性に合わない。
「いらっしゃいませ」
「よ、ダニエル。今日は3人だ。席はあるか?」
「ありますよ。ご案内しますね」
給仕の少年に案内された席に3人で座る。
すると何も頼んでいないのに湯気を立てたコップがテーブルに置かれた。
首を傾げると、給仕は苦笑いした。よくある反応なのだろう。
「サービスの白湯です。どうぞご注文を考える間にお飲みください」
「へえ……」
「驚きだろう? 普段は水を出すんだが、寒くなってきたと見てかいつの間にか白湯を出すようになってな」
「水をタダで出すっていうのも珍しいわよ」
「それはそうだ」
ニコラが肩を竦めた。
ルイーズが座席に立てかけられていた何かを手に取った。
それを開くとユーフェに差し出しながら説明する。
どうやらそれは厚紙が二つ折りにされていたようで、その中には文字がつらつらと書かれている。
エルフであるユーフェには当然読めないが、ルイーズは魔法使いだ。問題なく読めるらしい。
「ここはメニュー表があってね、ここに書いてあるものから注文できるの」
「そんなにメニューがあるの?」
「えぇ。文字が読めない人ならあの給仕のダニエルくんが代読してくれるし、何ならメニューにないものも頼んでいいらしいわよ、ほら」
そういって指された箇所をルイーズは読み上げる。
『食材持ち込み歓迎! ご要望も可能な限り承ります』……と。
「……なるほど」
ユーフェは目を細めた。少しだけ、彼らの自信有り気な態度の理由に得心したからだ。
メニュー表など置くぐらいにメニューの種類に自信がある店で、しかもリクエストも可能。
ならエルフ向けの料理でももしかしたら、ということか。
だが、そんな簡単なことだろうか。
どこか挑戦的な気分になりながら、給仕の少年を呼ぶ。
手を上げれば直ぐにやってくる様には教育の行き届いた印象を受けるが、さて。
「注文、良いかしら」
「はい」
「エルフが食べられる、動物を使っていない料理が欲しいの。あぁ、出来れば野菜スープはやめて」
別にスープが嫌いな訳では無いが。折角なら変わったものが出てこないかという期待と挑戦だ。
給仕の少年は少し考え込むようにすると、「恐らく出来ると思いますが店長に伺いを立ててきます」と返した。
(恐らく出来る、ね。少なくとも給仕からもここなら出来ると思われていると)
柄にもなく少しだけ高揚する。言いがかりを付けられないために「無理かもしれません」とは言わなかった。
あれは8割9割問題ないと思っている対応だ。
暫しして、温くなった白湯を啜っていると少年が再び顔を出した。
「可能だそうです。店長からは何か希望はあるかと」
数瞬、考える。無論ユーフェの頭に遠慮するという気はない。
あちらから言ってきているのだ、更に希望を重ねる事自体は問題ないのだろう。
どちらかというと、よりどちらのほうが望ましい展開になるか考え込んでいた。
「……いや、お任せしても良いかしら」
「かしこまりました。あぁ、ニコラ様とルイーズ様のご注文もお伺いします」
「あ、それなら俺は――」
何がやってくるのかしら。
こうして何かを待ち望むというのは久しぶりの経験で、少しだけソワソワしてきたのだった。
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