02 いざ出発!……ん? 俺も行くに決まってるでしょ、相棒❤
「いつまでついてくるつもりだ」
「ふっふーん、残念ながら俺も行き先がこっちなんだよねえ」
なんて、嘘である。どうやらリゲルのやつがミレッティの在処を見つけたらしいぞと踏んだオリヴィエが一方的に、堂々とその旅程に同行しようとしているだけなのだった。
オリヴィエの特技はずばり、ずうずうしさ。そして笑顔! 太陽よりも眩しい笑みを向けてやれば、どちらかといえばジメジメ系であるリゲルはうぐ、とダメージを受けたような悲鳴を上げた。そうだよね、辛いよね、俺みたいなの嫌いだろうけど無視できないよね。だっておまえはいいやつだから。
共同で見つけました、手に入れましたーとなればリゲルだけじゃなくて立ち会っていたオリヴィエの成績にもなる。男児たるもの、どうせならお偉いひとになってみたいじゃん。そのためには手段など選んではいられない。持つべきものはやっぱり優秀な友達だよね。
「ねえねえ、どこ行くの、どんな作品?」
「もう取り繕う気もないのか……」
がくりと肩を落として駅舎に入ったリゲルが、屋内という密な空間の人間の多さに酔い始めているのを察して腕をつかんでやった。
「すまない」
「いいってことよ♪ 切符買ってやる。どこまでだ?」
「……ルーデル公国、ホルツ……」
「おーけいおーけい、すみませーん! そこのおにいさん。ホルツまでの切符ちょーだい!」
ルーデル公国というのはお隣の国だ。ちゃっかり二枚分の切符を駅員から購入したのを見ていたリゲルは手渡された切符をぎゅっと掌に握り込んだ。誰も取りゃしないのにな。
「てかホルツまでならさあ、陸路じゃなくて海路の方がいいんじゃね? ちょうど帝都の港から直行便もあるし、山側から回り込むと時間も金もかか……あ、もしかして」
「言うな」
「うぷぷ。リゲルくん三半規管弱いのね……船酔い心配してんだ?」
「言うなっていってるだろ! まったくおまえは……僕の気も知らないでよくからかえるものだな……」
いっこうに顔色が戻らないリゲルを見ながらからかっていると、物憂げな表情でリゲルは息を吐いた。顔面が強いやつはどんな状態であっても絵になる。いまだって可憐なお嬢さんが「大丈夫ですか、よかったらこれを」とハンカチを差し出してきたくらいだった。
ただしそれも丁重にお断りしているのを見て、あーあとオリヴィエは嘆息した。まったく堅物なんだから。
ハンカチの一枚や二枚貰っといてもいいじゃん。使えるものは雑草でも藁でも、気難しい同僚でもなんでも使うオリヴィエとは真逆な律義な奴である。
そんなこいつのことを俺は――。
「嫌いだなあ」
「……何か言ったか?」
「いんや? 船旅じゃないのは残念だけど山の景色もきれいだよねー、新緑ってやつ?」
「八月のいまはもう初夏というには暑すぎるが……」
「まあいいじゃないの、細かいことは」
ばしばし、と背中を叩くとうぷ、と吐きそうな声が唇から漏れた。おいおい、げろってもそこまでお世話してやんないよ? 俺は別に世話焼きでもお節介でもないんだからな。
ひょんなことから特別親しいというわけでもない同僚に同行することになってしまったわけだが――帝都発、ホルツ行きが発車するプラットホームまで歩く間に、オリヴィエは一旦、立ち止まり言った。
「ま、なんとかなるっしょ」
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