本編6 正面入園口前
「君は、ここにいてはいけないよ」
ゴーカートを走らせる彼女は正面を向いたままゆっくりと話し始めた。
「ここは、死んだ子どもたちの楽園。
さっきのマスコットは、遊んで満足した子どもを迎え入れる者。
だけどいい加減で、まだ遊び足りない子どもや、君みたいに迷い込んだ子まで連れていこうとする。
……ここだけじゃない。全国の遊園地が、4年に3度、私たちを迎え入れてくれる。3年間のうるう年は、亡くなった子どもたちが遊べるフリーパスの日」
隣に座る貴方を見つめた彼女は「これから何十年も遊ぶはずだった未来が失われてしまった、私たちのために開かれるの」と、寂しそうな悲しそうな目をして言った。
ドンッ。 ドンッ。 ドンッ。
地面が揺れるほど大きな音が後ろから聞こえてきて貴方が振り返ると、太陽の広場にある大きな犬の銅像が追いかけてきているのが見える。
「大丈夫」
貴方の不安を感じたのか、彼女が凛とした声でそう呟く。すると、周りで光っていたイルミネーション。満足した子どもたちの魂である白い光が銅像を囲い、動きを止めた。銅像の足には、笑顔のままの大人が必死にしがみ付いて止めようとしているのも見える。
それに、ジェットコースターから空へ飛び上がった子どもたちが【ドンッ】という音を響かせて花火を咲かせ、目を眩ませているのも見えた。
貴方を逃がそうと、ここにいる子どもたちと一人の大人が手助けしてくれていた。
「だから、君はここにいてはいけない」
彼女に視線を戻すと、「私たちには遊園地しか開かれないけれど、君にはこれから先、たくさんの楽しいことが待っているから」
そこには、彼女の温かく柔らかな微笑みがあった。
「だからどうか、私たちの分まで――」
その時、彼女から眩い光が湧き出てきた。するとそこには、生きていた頃のかわいらしい少女の姿が現れ。
「幸せに、めいいっぱいっ、生きて」
そう言って、歯を出してニカッと笑った彼女は、怖くも恐ろしくもない。年相応の、かわいらしく、あどけない、ただの少女だった。
入園口へと突っ込んで行くゴーカート。そこから、彼女は勢いよく飛び降りた。そんな少女に思わず手を伸ばしながら入園口に入った貴方の周りを、眩い温かな光が包み込んだ。
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