シアイ~チャンバラ合戦(仮)

素良碧

第1話 求む人と夕刻のこと

「「「「「「「ああ……」」」」」」」


「「「「人に……」」」」


「「「「人に……」」」」


「「「「「会いてえなあ……」」」」」


「「「「会って、やらなきゃいけねえことがあるんだよなあ……」」」」


ある日の夕刻のこと。


「いやあああ、たすけてえええ!」


男が涙目で叫びながら走っていた。


「ど、どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだ。俺がなにしたっていうんだよ!」

『君はなにもしてないよ』


その声に男はビクリとする。

ビビりながらも精一杯の声をだす。


「どういうことだ」

『君はただの…』


声が一瞬途切れる。


『暇つぶしの道具だよ』


次の瞬間男の視界が暗くなる。

と同時に生温かい感触が襲った。

襲ったそれからは、鼻がもげそうなほどひどく臭かった。

そのせいで男はひどく悶絶。

臭いに考えを奪われたせいで、さきほど襲った感触のことなどどうでもよくなり。今は早く悪臭から解放されたかった。


『君いい顔だね~』


その声が聞こえると、ようやく悪臭が消えた。

が、まだ体からは臭いがなくなっていない。

触るとべちゃくちゃするし、ねっとりとする感触。

気持ちが悪かった。


『ねえ、いい加減こっちを見てよ』


男はハッと息をのみ、恐る恐る顔をあげると。

まず見えたというよりも、再びあの悪臭に襲われた。

その発生源は、男の背丈よりも大きい舌からだった。

臭いの正体は唾、体をなめられていたのだ。

その次に見えたのは。

舌をしまう場所、唇。

形は人と同じではある。しかし違う所がある。

最後に見えたのは、顔。

これも人と同様ではある。しかし違う所がある。



そう、大きさであった。

それは男の背丈よりも大きかった。

近くに生えている木と同じくらい。


さらには人にあるはずの手と足がない。

顔だけ、顔のみの生き物。

人はおろか、そんなもの動物にだっていない。

考えられるとしたらたった1つ。

たった1つしか思いつかない。

人々は恐怖を込めてこう呼ぶ。


「よ、妖怪だあーーーーー!」


男は大きな声をあげ、妖怪と呼ぶモノとは逆の方角へと逆走する。


『アッハッハ、やっぱり人間は面白いねー!』

顔だけの妖怪は笑い転げた。

この妖怪の名前は大顔。


そのまんまな名前の妖怪。

趣味は人が慌てふためく所を見る。

なんとも迷惑な奴である。


『面白いから辞めることができない、さっきの人間の顔ときたら!』


さっきほどの男の顔を思い浮かべると、大顔は再び笑ってしまう。

と、そんな時。


「「「「ああ、お前人間か~?」」」」


と背後から人の声が。

男だけでなく、女や子どもなど色々な声が。

どうやら複数人以上はいるようだ。

そう思った大顔は、再び人が驚く場面が見えると考えもうそのまんまで。


『ああ、そうだぞ~!』


驚かせることにした。

目の前にいるのは人かと思っていた。

が。

落ち武者がいた。





「「「「人間…」」」」

「「「「やっと…」」」」

「「「やっと…」」」




「「「「「斬れる!」」」」」




その瞬間、大顔は縦に真っ二つとなり。

それがなんなのかも分からないまま。

灰となって消えてしまった。


大顔を斬ったそれは。


「「「こいつ、人間違う」」」


右手の刀を軽く振るう。

すると近くにあった木がドスンと倒れた。


「「「ああ、人間に……」」」

「「「人間に会って…」」」


「「斬りたいよ……」」


残念そうにつぶやき、それは闇夜に紛れ込んでいった。

その後。

その場所で人を驚かす妖怪が二度出ることはなくなった。

嵐もないなかで木が倒れたことは、ちょっとした話題にはなったが。

妖怪に関係しているかもしれないことから人々はそれ以上深堀りすることはなかったそうな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る