四天王4

 俺たちは先生の両親のお墓に手を合わせた。


金持ちだったらしいから、てっきりすごく立派な感じの権威をひけらかすような墓なのかと思ってたけど、普通にこじんまりとした墓だった。


なんとなく、郷に入っては郷に従える人だったんだろうなと思った。


「……では、息子さんを頑張って止めてきます。見守っててください」

大和が下げていた頭を上げた。


「よし! じゃあチェルボのお偉いさんに交渉に……」


「ん? どうしたんですか天音。あ」


全員お参りを済ませたところで後ろを向いたら知らない四人組がこちらを見ていた。


「あのー。アタシたちも手合わせてもいいかな?」


一人が遠慮がちに言ってきた。


先生の両親の知り合いか何かだろうか。

にしてはずいぶん若い気がするけど。


四人とも旅人っぽい恰好をしていて、大体俺たちと同じくらいの年齢に見える。


いや、そんなことはどうでもいい。

こいつらなんか雰囲気がやばい。


「いいでゴザルよ」

「ありがと~」


俺たちは場所を入れ替わるように移動した。

四人組は墓に向かって手を合わせ、頭を下げた。


ふと早乙女さんの方を見ると望月さんと顔を見合わせていた。


二人とも四人組を警戒しているようだ。


恭介が早乙女さんに小声で訊いた。


「あの四人組はチェルボの人ですか?」

「違う」


早乙女さんは斧を取り出した。


待って?

どっから出した?


気づけば望月さんも斧を構えている。


マジでどこに隠し持ってたんだ。


かくいう俺もズボンのポケットから刀の柄を覗かせている。


こちら側は大和以外全員戦闘態勢に入った。


四人組のうちの一人がこちらに振り返らずに立ち上がった。


「訊きたいんだけどさぁ。なんでオレらに敵意を向けるわけ?」


「え?」


一人だけ状況が分かってない大和が呆けた声を出した。


「もしかしてアンタらが旦那の言ってた奴らなのかな?」


「さあな。あんたのゆうてる旦那ってのが誰なんか知らんからなんとも言えんわ」


「そりゃそっか」

「……」


沈黙が流れる。


大和だけ訳が分からずあたふたしている。


早乙女さんが四人組に訊いた。


「お前たちチェルボの人間じゃないな。何者だ。人型魔族か?」


「違うさ。オレたちは……小野寺桜澄に仕える四天王だ」


それを聞いた瞬間、恭介はそいつのすぐ隣に移動していて殴りかかっていた。


恭介は容赦なく顔を殴り飛ばしたが、そいつの顔は水に変わって、直後にまた元通りになった。


「いきなりだな~痛いじゃねえか」


恭介は一度距離を取った。

それを見て日向は指を鳴らした。


一同、チェルボ周辺の廃墟と化した街の交差点のド真ん中にテレポートした。


「え、え、どういうことですか!?」

大和が更に困惑している。


「こいつらがげんじーがゆうてた奴らってことや」

「え? じゃあなんでこんなところで遭遇するんですか?」


「知らんわ」

「げんじーさんの話じゃ」


「だから知らんっちゅうねん。とりあえずこれ持っとけ」


日向は大和に魔法書を手渡した。


「これ、確か魔法を反射する魔法書でしたっけ」


「せや。今魔力込めといたからしばらく使えるはずや。魔法が飛んできたらそれ向けたら反射する。それで自分の身守っとけ。守ってやれる余裕がないかもしれん」


「俺も戦いますよ!」

「ついてこれる自信があるなら戦ってみたらええよ」


そう言って日向は杖を構えた。


俺と恭介もそれぞれ刀と錫杖を取り出して構えた。

遅れて大和も刀を取り出した。


どれもヴォルペで作ってもらった武器だ。


天姉はいつの間にか着替えていて、くノ一っぽい恰好をしている。


一体いつ着替えたんだ。


向こうの四人組は手ぶらではあるが、一切の油断なくこちらを見ている。


恭介が動いた。


向こうの冷静そうな方の男に一瞬で距離を詰め、錫杖で殴り飛ばした。


男は腕で受けたが、受け止めきれずそのままぶっ飛んでいき、恭介はそれを追いかけていった。


それを見て向こうの残った三人は顔を見合わせた。


「カヨイぶっ飛ばされていったな」


「だね。はぁ~あ。親父の両親の墓参りに来ただけなのになんでこんなことになるのかね~」


「ため息をつくなロゼメロ。まぁ良いではないか。桜澄様が言っていた、邪魔してくるかもしれない昔の弟子たちというのはこいつらで間違いないだろう。むしろ良かったのだ。私たちの方で処分すれば桜澄様のお手を煩わせることもなくなる」


「やっぱりそうだよねー。じゃあやるしかないか」


ロゼメロと呼ばれた女はこちらに右の手のひらをみせるようにしてきた。


直後、荒々しく燃え盛る炎が俺たちに迫ってきた。


早乙女さんと望月さんの二人はものすごいスピードでどっかに行った。


日向は自分自身と大和を結界で保護して、俺と天姉に向かって目で合図した。


次の瞬間、目の前の景色が入れ替わる。


日向の空間魔法によって相手の三人の背後にテレポートした俺と天姉はすぐさま仕留めにかかった。


天姉はロゼメロの後頭部に迷いなく殴りかかって、俺はさっき恭介が殴って顔が水になった奴の首を刀で刎ね飛ばした。


「痛ァ!」


ロゼメロの方は普通に殴られてそのまま前に倒れた。


俺が斬った方は宙に浮いた生首が水に変わって弾けた。


かと思ったら体の方も水に変わって地面に水溜まりとなって広がった。


「分身でーす。アヒャヒャヒャ!」

どこからともなく声が聞こえた。


「チッ。ウゼーでゴザルな」


火炎魔法を食らった日向と大和の方はというと、普通に結界で無事だったみたいだ。


「うわぁなんだ貴様ら! どっから現れた!」


もう一人の奴はテレポートで急に背後に現れた俺たちにびっくりしたらしい。


驚きながら風魔法を放ってきた。


うわぁとか言いながら放ったやつなのにとんでもない威力だ。


俺も天姉も避けることはできたが、後方の折れて頭を垂れていた標識が細切れになった。


魔法の威力にドン引きしていると天姉に殴られたロゼメロが後頭部を手で押さえながら立ち上がった。


「びっくりするくらい痛かったんだけど。なんの躊躇もなくいきなり後頭部とか殺意がすごいねアンタ」


「あなたの火炎魔法も大概だったでしょ」


「お互い様か」

「そういうことです」


天姉とロゼメロがそんな会話をしていたその時、ロゼメロに向かって空から斧が降ってきた。


「あっぶねぇ!」


ロゼメロはギャグみたいな動きでひょいっと横に避けた。


と思ったら今度は風魔法を使った奴の頭上から同じように斧が。


風魔法の奴は

「偏西風!」

と叫んで、右手の人差し指で左を指差した。


すると頭上に左向きの強風が発生し、斧はそれに煽られて少し逸れ、風魔法の奴のすぐ隣に落下した。


ロゼメロを狙った斧は早乙女さんが、風魔法の奴を狙った斧は望月さんがすごいスピードで走り去りながら回収していった。


二人は二秒後、俺と天姉の背後に戻ってきた。


「……偏西風ってのは技名?」

天姉が遠慮がちに訊いた。


風魔法の奴は真剣な顔で頷いた。


「クソダサいでゴザルな」

「なぁんだとこのやろぉ! 名乗れぇ! 名を名乗りやがれぇ!」


思ったよりブチギレた。


「けいでゴザル」

「名前覚えたからな貴様」


「そっちも名乗るでゴザルよ」

「ウルフロバテーネだ」


「ふーん」

「なんだその反応は。ぶちのめすぞ貴様」

「ふーんって言っただけでゴザルよ……」


「ちなみにアタシはロゼメロだよ。最初にアンタらの仲間がぶっ飛ばしたのがカヨイで、さっきからアンタらの仲間の結界をぶん殴ってるのがゼノライト」


言われて日向と大和の方を振り返ると確かにさっき首を刎ねたら水になった奴が日向の結界に殴りかかっていた。


と思ったら日向に杖を向けられて吹っ飛ばされた。


「あちゃー」

ロゼメロは額に手をやった。


日向は結界を解いて歩き出した。


「あれ、どこ行くんでゴザル? 大和守ってた方がいいと思うでゴザルが」


「恭介の方をサポートに行ってくるわ。やばそうやからな。大和に関しては自分で頑張れ」


確かに向こうの方でどったんばったん激しい音がしている。

恭介とカヨイが戦っているのだろう。


「俺も戦いますって言いたいですけど、レベルが違いすぎて邪魔にしかならないですね。せめて自分の身は自分で守ります」

「それで十分でゴザルよ」


元々先生と戦うことになった時、大和には周りの魔物とかに対応してもらうことになっている。


俺たちの提案したこの役割を大和は受け入れた。


どれだけ綺麗事を並べても大和の実力じゃ足手まといにしかならないというのが現実だ。


大和自身が一番それを分かっているのだろう。

今回も大和は自分にできることをやろうとしているだけだ。


日向は大和を見て一度頷いてから指を鳴らしてテレポートした。


「さて。アタシは殴られた恨みがあるからアンタを指名しようかな」

ロゼメロが天姉を指差した。


「人を指差すなって桜澄さんに教わらなかったかい?」


「あー言われたことある。親父そういうとこ厳しいから困るんだよね」


「お、親父!? あなた桜澄さんのこと親父って呼んでるの!? まさか桜澄さんの子供!?」


「子供っていうかなんていうんだろ。ねぇなんていうんだろ」

「私に訊くな。私が分かるわけないだろう」


「まぁどうでもいいか。とりあえずアタシの相手はアンタね」

「いいよー」


天姉とロゼメロは二人並んでどこかに歩いて行った。

それを眺めていると空から戦車が降ってきた。


今日はよく物が降ってくるな。

これは多分恭介の仕業だ。


戦車はウルフロバテーネの風魔法によって空中で切り刻まれた。


そしてさっきからここら一帯にうるさく鳴り響く音の元凶がやってきた。


狐のお面をつけ、白髪が腰のあたりにまで伸びていて、狐の耳が生えていて、巫女服を着て錫杖を持って空を飛んでいる恭介が来た。


何を言っているのか分からないと思うから解説しよう。


「何アレ!?」

大和が声を上げた。


うん。

びっくりするよね。

わかったわかった。

解説しよう。


「あれは恭介が全力を出した姿なんでゴザルってあっぶね」


解説しようとしたところでウルフロバテーネが風魔法を俺に向かって放ってきたから魔法を刀で斬り伏せた。


「今解説しようとしてたのになんで攻撃するんでゴザル?」


「知るか。貴様はさっき私の技名を馬鹿にしたから許さん」


また風魔法を放ってきた。

同じように俺もまた魔法を斬り伏せる。


「あーもう! 今から解説しようとしてるでゴザルのに!」


カヨイと恭介もこの場で戦い始めたからもう滅茶苦茶だ。


カヨイの土魔法が地形をぐにゃぐにゃにするから解説どころではない。


「でも解説するでゴザル。こうなったら意地でも解説するでゴザル」


「やってみろォ! 私の技名を馬鹿にしたことを後悔させてやるぞこんちくしょうめ!」


俺はウルフロバテーネの魔法をどうにかしながら大和に聞こえるように声を張り上げて解説を始めた。


「恭介がつけているあの狐のお面には凛が宿ってるんでゴザルよ! ふん! 恭介はっ、凛を宿したお面を装着することでっ! おらァ! より強力な幻惑魔法がッ! おんどりゃああ!」


「けい! 無理して解説しなくていいですよ!」


「大丈夫でゴザルッ! あの恰好はなんでかよく分からんでゴザルが、お面をつけるとあんな恰好に勝手になるんでゴザルッ! うぉ! あっぶねぇ! ひょいっとな。ふー。ちなみにあの技は神と一体になるから人神一体じんしんいったいって呼んでるでゴザルぅううおぉ!」


恭介が幻惑魔法で大量に作って浮遊魔法で宙に浮かせている機関銃が一斉掃射され、流れ弾がとんでもない数飛んできたから全部斬った。


「大和は大丈夫でゴザルか!」

「大丈夫です!」


「早乙女さんと望月さんはっと、ゼノライトと戦ってるでゴザルな。あっちはあんまり心配いらなそうでゴザル」


「よそ見かオラァ!」


ウルフロバテーネが懲りずに風魔法を放った。

俺も懲りずにそれを叩き斬った。


こっちは大丈夫だが、恭介と日向の方がやばそうだ。

あのカヨイって奴が強い。


土魔法で巨大な虎の像を作ってそれを動かして暴れさせてる。


廃ビルをなぎ倒したり地面を抉ったり滅茶苦茶だ。


恭介はそれに対抗して幻惑魔法で巨大な刀を作って浮遊魔法でぶんぶん振り回したり、なんかもうすごいことになってる。


日向はカヨイの攻撃から恭介を守ったり、俺たちの方にできるだけ流れ弾が飛ばないようにしたり忙しそうにしている。


少し遠くからは炎が上がっている。

天姉とロゼメロも激しい戦いを繰り広げているようだ。


ふと大和の方を見ると、大和の背後にゼノライトがいた。


「大和! 後ろ!」


俺の声に反応した大和は背後を刀で斬り払いながら振り返った。


ゼノライトの体は大和に斬られて真っ二つに分かれた瞬間、水に変わった。


「分身でーす」


そう声が聞こえたと思ったら大和の死角で水が発生し、それは人を形作った。


「大和! くっ!」


助けに駆け出そうとしたら、ウルフロバテーネの魔法に邪魔された。


大和は今度は反応することができずに背後からゼノライトに殴られた。


そのままよろけて倒れた大和は睨みつけるようにゼノライトを見上げた。


ゼノライトは手をグーの状態から親指と人差し指だけを開き、所謂指鉄砲のポーズを作って大和に銃口を向けるようにした。


すると人差し指の先端に水の玉が発生して、ゼノライトはそれを大和に向かって撃った。


「痛ッ!」

大和の肩から血が滲む。


ゼノライトは表情を変えることも無く、もう一度大和を撃った。


大和は力を振り絞り、持っていた魔法書を押し出すようにして水の玉に当てた。


水の玉は跳ね返り、ゼノライトの体に当たってポチャンと音を立てた。


ゼノライトは気にせず、大和が差し出すように向けてくる魔法書を取り上げた。


「これ、貰っておくぜ」

「あ、こら! 返せ!」


大和はポケットから木刀を取り出したかと思うと一瞬でそれを折り、折れた先端部分をゼノライトに突きつけると同時に木刀にコレクトした。


木刀は元の状態に戻り、ゼノライトの体を貫いた。

某ライトなセーバーみたいな攻撃の仕方だ。


「おぇ! なんだこの魔法。オレじゃなかったらえげつないことになってるぞ」


貫かれた部分からは血ではなく水が流れ出た。


「クソ! なんなんだよお前不死身か!?」

「いや、これ分身だから。本体にこんなことされたらちゃんと死ぬから」


「そんなことより魔法書返せ!」

「嫌だね」


肩から血を流しながら迫る大和の両足をゼノライトは撃ち抜いた。


それでも這いつくばりながら大和が追いかけようとしたところで、大和の視界に映る景色が入れ替わった。

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