大和、頑張る

 勇者の剣をげんじーに渡した後、五人は旅館に戻った。


天姉と日向と別れ、自分たちの部屋に入って布団を敷いた時

「いや~久しぶりに布団で寝れますよ~」

と大和が感動したように言った。


「ずっと野宿だったのでちょっと大変でした」

「そういえばそっか」


「お金渡しとけば良かったね。っていうか渡しておこう」


恭介が大和にクレジットカードのようなものを渡した。


「それブラックカードみたいなもんだから。でもあんまり無駄な買い物しないようにね」

「え、あ」


カードを持つ大和の手は震えだした。


「なんか緊張するよね。僕も最初渡されたときどうしていいか分からなかったもん」


恭介は自分のカードを取り出して眺め始めた。


大和も真似するように渡されたカードを見つめ、ため息をついた。


「どうしたの?」

「勇者がブラックカードって……。勇者はお金が少ない状態から旅を始めるものじゃないですか。最初からお金持ってる勇者ってやっぱりおかしいでしょ」


「なんで? 世界を救うための存在なんだからお金持たされるに決まってるじゃん」


「んー。ぐうの音もでないですね。……あーそれにしても疲れた!」


「色々あったからねー。今日はゆっくり休むといい」

「寝ます」


「おやすみ~」


大和は幸せそうに布団の中に潜り込んだ。


そんな大和を見て、恭介とけいは頬を緩めた。


そして

「僕たちも寝ようか」

「そうだね」

と言って部屋の明かりを消した。



 二人が寝息を立て始めたのを確認して、俺は音を立てないようにゆっくりと布団から這い出た。


そして立ち上がり、ポケットからスマホを取り出した。


一瞬だけ画面を二人に向け、照らしてみる。


恭介は足が少しだけ布団からはみ出ていて、けいは右腕が布団から出ているのが分かった。


俺はまず、抜き足差し足で恭介の足に近づいた。


二人を起こすことなく無事に恭介の足元にたどり着いたので、しゃがみ込んで恭介の足をスマホのライトで照らす。


恭介の足から影が伸びる。

俺はその影に小声で話しかけた。


「凛。ちょっと起きてほしいんだけど」


俺の声に反応して影が少し揺らめき、狐が現れた。


眠そうに前足で目元をこすっている。


同じようにして小太郎も起こした俺は二人を連れて押入れの中に入った。


この旅館の押入れも例によって日向の空間魔法が施されている。


さっき

「明日からまた大和をボコボコにするために、前と同じ感じで押入れに空間用意してるからな」

と日向がニコニコしながら言っていた。



 押入れの中にはこの前と同じように白い空間が広がっていた。


何回見てもすごいなー。

いいなー。


ぼけーっとこの空間を見渡していると凛が足に軽く頭突きしてきた。


「あーごめんごめん。こんな夜中に起きてもらった理由を早く説明しないとね」

凛はそうだそうだ! と言うように二度頷いた。


小太郎はつぶらな瞳でみつめて来るだけで何もしない。


「こほん。えー二人とも分かっているように、俺はすごく弱いです。この前はそこら辺にいる魔物にやられてしまいました。四人についていくためには、俺はもっともっと強くならなきゃいけない。そんで、四人は俺のことを鍛えてくれるけど、やっぱり加減してくれているところがある。それじゃダメなんだ。四人と一緒にいたいなら、俺は命を削るような努力をしなければならない。でも四人は優しいから俺に対してそこまでのことをしない。だからお願いだ! 二人に俺のことを鍛えてほしい!」


二人は俺の言葉を聞いて首を傾げた。


なんとなく

「今までも一緒に修行したことあるよね?」

と言ってるような顔だなと思った。


二人には俺が言いたいことがすべて伝わっているわけではないようだ。


「つまり俺が言いたいのは、四人には内緒で水色の魔法陣とかそれ以上のやつとかを使って修行したいってことなんだ」


それを聞いた二人は少し目を見開いた。



 魔法陣は色によって強さが違う。

そして四人が俺の修行で使うのは茶色の魔法陣。

一番弱いやつだ。


白黒、三原色、オレンジ、紫、水色、茶色の順らしい。


日向曰く、

「水色でも大和の指を吹き飛ばせる程度の威力はあるで」

だそうだ。


俺は四人に何度もお願いしたが、四人が水色以上の魔法陣を使ってくれることはなかった。



 凛と小太郎の二人は、俺の目をじっとみつめてきた。


そして小太郎が俺の足に擦り寄ってきて、心配そうに見上げてくる。


俺は小太郎の頭を撫でた。

「俺、みんなと一緒にいたいんだ」


俺の言葉を聞いた小太郎は助けを求めるように凛の方を見た。

凛はゆっくり頷いた。


小太郎は観念したように凛のもとに戻り、俺の方に向き直って一度大きく頷いた。


認めてくれたってことだろう。


「ありがとう。それじゃあ……よろしくお願いします!」


この日から俺は四人に内緒で、凛と小太郎との修行を始めた。

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