どうしよもなくクズで最低で価値のないあなたへ

傷美

第一章 クズで最低な俺と最低な君。

第1話

 どうしようもなくクズで最低なあなたへ


「本当に最低、全然私の事わかってない!!」


 彼女はそう言った、感情のまま俺に言葉をぶつけ涙を流しながら。

 今日はいわゆる恋人という関係になってからちょうど半年というところで今は彼女の家で記念日のパーティーと言うものを開いていた。

 彼女がこうなってしまった原因というのは全くわからないというわけではない、だがわかってはいるのだがなぜそこまで憤る必要があるのかが理解できないのだ。

 客観的に見れば俺が大人で彼女が子供、そう言った見方もできるかもしれない、だが人によっては俺が最低で彼女は正しいという考えの人もいる。

 そもそも人によっていろいろな考え方もあれば人それぞれの生き方があるわけであるし、誰かの意見を否定する人もいれば、肯定する人もいる。


 ここまで話して回りくどくなってしまったが俺が言いたい事はこうだ。


「ごめん、別れよっか」


 自分の生き方を曲げてまで俺は彼女と一緒にいたいと思えなかった。


 パシンッ、と渇いた音がした。

 一瞬何が起きたか理解ができなかったがその後に感じた左頬の痛みですぐに理解した。

 叩かれたのだからここで俺が彼女に対して憤ってもいいのだが何故か怒れなかった、感じるのはただ何故? と言う感情だけだった。


「顔も見たくない、出て言って」

「・・・・・・わかった」


 元々最低限の物しか持ってきていないので帰り支度をするにそこまで時間はかからなかった、なんとなく彼女の表情が気になって部屋を出る前に横目に見る。

 涙を流しながら、俺を恨めしそうに睨んでいる。

 誰がどう見てもわかる、彼女は俺に激怒しているのだろう。


 本当に小さい人間だ。



 ************



「ということがさっきあったんだが」


 彼女の部屋を出てから俺は友人の家に転がり込んでいた。

 友人の名前は一樹かずきと言って一樹とは中学校からの仲で現在二十四歳になっても未だに週に一回は最低でも会う程の仲だ。

 一人暮らしの一樹の部屋には常に酒があってそこまで金の無い俺にとっては安く酒が飲める場所として重宝している。


「まぁ、お前がいいならいいんじゃない?」


 酒をあおりながら一樹はそう言った、たぶん、というか絶対に適当に返しているだろうし俺の言った言葉をそこまで重くとらえていない。

 相談相手としてこれほどダメな奴はいないだろうが俺は正直どうでもいい、何なら一樹のこういう適当なところが楽で未だ付き合いが続いているのだろうとも思う。


「どうせお前すぐ彼女できるでしょ」

「いや、しばらく恋愛はいいかな」

「その言葉毎回聞くけどヘビースモーカーの明日から禁煙する並みに信用ないぞ」

「オーケーじゃあ今回は本当だ、もしも付き合ったら三万払う」

「・・・・・・言ったな、絶対忘れないからな」


 もし本当に三万払う羽目になったら貧乏な俺の財布の中身は悲鳴を上げて泣く泣く消費者金融に駆け込まなければいけないかもしれない。

 そもそも借りれればの話だが。


 ポケットから紙タバコを取り出して火をつける。

 賃貸のアパートだが退去費用は俺が払うわけではないから気にせずに吸う、最初こそ一樹は文句を言っていたが今では一樹もあきらめて思い切り部屋の中で吸っている。

 最近では喫煙ができる場所が規制され喫煙者の肩身が狭いなどぼやいているが俺からすれば知ったこっちゃない。


「ところでさ、お前が最近気に入ってる店の子どうなった?」

「あーアイカちゃんの事? 普通にメッセージのやり取りしてるぞ」

「ふーん、その店今度一緒に行こうよ」

「・・・・・・アイカちゃんを狙うなよ」

「狙わないし、そもそも店の子がお客さんに本気になるわけないだろ」

「いーや、アイカちゃんは絶対に俺の事好きだと思う」


 アイカちゃんというのはここ最近行きつけのスナックで働いている女の子で一樹の家に遊びに来るたびにその子の名前が会話に出てくるので嫌でも名前を覚えてしまう。

 顔は見せてもらったが確かにその子のビジュアルは可愛い、只一樹のビジュアルはお世辞にもイケメンとはいいがたい、本人は絶対に言わないが。


「狙う狙わないじゃなくて一樹の推してる子がどんな子なのか見てみたいってのが本音、お前も彼女と別れたばっかりでしょ」

「まぁ別れたけど未だに会ってる、セフレみたいな感じ」

「アイカちゃんはどーすんのよ」

「アイカちゃんはただの推し、恋人にしたいとかそういうのじゃないっての」


 そう一樹は言った、俺からすればセフレと推し、ましてや恋人など何が違うのかわからないし別のくくりにする意味も分からないのだが本人がそれでいいと言っているのだからそれでいいのだろう。というか好きにして欲しいとすら思っている。

 そんなこんなで一樹とサシで二時間ほど駄弁りながら飲んで丁度日付が変わったくらいだろうか、突然一樹の携帯に着信が入った。


「わり、ちょっと電話出る」


 俺の返事も待たずに一樹は携帯片手に外に出て行った、俺の前で話せないということから大体の電話相手はには見当がつく、おおむね先ほど言っていた最近別れた元カノだろう。俺も数回ほどしか会っていないがそれでもなんとなく嫌われているような気がしていた、一樹はそんなことどうでもいいのだろうが。


 数分して一樹が戻ってくる、ニヤニヤとしていることから絶対に異性がらみの電話に違いない、正直彼女と別れたばかりで相手もいないのでうらやましくないと言ったら嘘になる。


「サキにのみに来ないかって誘われたんだけどお前も来る?」

「お前とサキちゃんプラス俺ってめちゃくちゃ気まずいんだが」

「大丈夫だ、もう一人連れてくるって話だ、しかもその子も最近彼氏と別れたらしい」

「へぇ、ちょっと洗面台借りるぞ」

「そう来ると思った」


 別に今俺が遊んでも咎められることはないし、折角の誘いを断るのも男が廃る。

 だが行くからには全力で行かせてもらうことにする。


 そして待ち合わせの洒落たバーへとついて一樹と二人で待っているとそこに入ってきたのは一樹の元カノであるサキちゃん、そして


「なんであんたが・・・・・・」

「あ、ども・・・・・・」


 先ほど別れたばかりの元カノがいた。


 気まずい、とかそう言った感情は俺にはなくて、面識のない一樹と一樹のセフレであるサキさんは不思議そうにこちらを見ていた。


「あれもしかして知り合いか?」

「・・・・・・いや」


 少し考える、そのまま伝えてもいいのだろうがそうせずにこの場を収めることの方が場を乱さないような気がした。


「昔ストーカーから助けたことがあってそれで面識あっただけだよ、ねリカさん」


 嘘はついていない、実際俺とリカが付き合うことになったのは本当にストーカーから色々あって守ってあげたのがきっかけだしここで変に嘘をついても後でこじれそうな気がした。

 そんな意図を目の前のリカは汲み取ったのか、へたくそな作り笑いでごまかしながら苦笑いしていた。


「ふーん、すっげぇドラマみたいだな」

「確かに! てかそれで付き合わなかったのが不思議だし」


 まさか当然のように付き合っていたし、最近というか日付が変わったので昨日振られた相手が俺だとは一樹とサキさんはわかる筈もない。

 そのあと適当に席に座り、適当な酒を頼んでリカの失恋話を聞いていた、本当に俺の前でいう話じゃなだろうとは思うのだが嘘をついてしまった以上それはしょうがない。

 そんなこんなで今は目の前に件の失恋した男がいる状態でのその男についての愚痴、思い出話、好きだったところ、嫌いだったところ本当に一から十まですべて話していた。


「本当に好きだったの、でもあっちの気持ちが全然わからなくて・・・・・・」

「そうなんだ、いやそいつ最低だな。俺ならそんな思いさせないのに」


 泣きながらそう話すリカの隣で一樹は必死に慰める、意図は見え見えで下心丸出しだがまさか一樹も俺の元カノだとは思ってもいないだろうしここでそれを言ったところで場を乱すだけなので俺はリカの失恋話をただ聞きながら頷くことしかできなかった。

 そのままどれくらい時間が過ぎただろう、スマホを見れば気が付けば深夜二時を少し超えたあたりで店内には俺と一樹、そしてサキさんとリカだけになっていた。


「ごめん、ちょっと一服してくる」

「あ、私もー」


 外の空気を吸いたくての一服に何故かサキさんもついてくることになったがまぁいいなんとなく一人にされたくなかったので丁度良かった。



 *********



 外の空気と一緒にタバコの煙を吸い込む。

 隣ではサキさんも同じように深呼吸をするようにタバコを吸っていた、飲み屋街のネオンも相まってそれがやけに色っぽく見えるのはきっと酒が入っているせいだろう。


「なーんか一樹とリカいい雰囲気じゃない?」

「まぁ、失恋直後にあんな風にやさしくされたらしょうがないと思うけど」

「なんか他人事見たい」

「実際他人事だし、どうするかは当人たちの勝手でしょ」


 厳密にいうと他人事ではない、というか俺の話だ。


「君も同じ状況ならそうする?」


 そうサキさんは少し寂しそうに言った。


「俺も一樹同様、失恋直後のサキさんにやさしくすればいい?」

「・・・・・・聞いてたんだ」

「平気なふりして強がってるのかなってずっと思ってた」

「別に強がってるわけじゃ・・・・・・」


 まぁ、一樹もそうなら俺もそうするか。


「手、震えてる」


 隣にいるサキさんの手を握った、びっくりするほど冷たくてやっぱり震えていた。

 サキさんは最初こそびっくりしていたが今は俺の目をただ見つめていた。

 数秒間火のついたタバコの事を忘れてただ見つめ合っていた。


「ねぇ、キスして」

「いいよ」


 その二言のやり取りの後、俺とサキさんは店の前でキスをした。

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