「何」で読むか

 あなたがこの文章を読んでいるのは、どの媒体からですか?

 パソコン? タブレット? それともやっぱりスマホでしょうか。


 まさか紙の本で読んでいる人なんていないでしょうね。

 だってこの文章は印刷されていないですから(印刷して読んでいる場合は別ですが)。


 私は、Webで小説を投稿し、自分が書いたものを読む必要が生じ、他人の書いた小説も読むようになって、文章を「何」で読むのかが、どんな文章が読めて、逆にどんな文章がその媒体に「向いていない」のかに強く影響していると思ったのです。


 結論から申し上げますと、Web小説には既存の紙の本のような表現は向いていません。


 たとえば自分のようにパソコンで縦書きで書いた小説をWebにそのまま掲載しても、まず読んでくれません。


 いえ、少し違いますね。短編ならば、そのような文体で書いても読んでくれます。でもそれが長編になると、もうダメです。


 あなたの小説の出来と関係なく、それは最後まで読まれません。


 それはなぜなのでしょう。Webの読者は文学に対して理解がないのでしょうか。ある意味では、そうでしょう。彼らのことを低俗だと罵るのは簡単です。でも、彼らは、実はWeb小説というものがどんな媒体で、どんな形式をとるのか、最も理解している存在でもあります。


 ではWeb小説とはどのような形態、どのような表現形式が最も適しているのでしょうか。

 それは私がいちいち指摘しなくてもわかると思います。「なろう系」と言われる、「テンプレ」の作品と文体が一番適しています。なぜか?

 それは端的に言えば「スマホの画面」「パソコンの画面」つまり「画面」が関係していると思っています。


 Web小説は、今ではほとんどがスマホで読まれると思います。それは仕事の隙間時間、寝る前のちょっとした時間、朝の通勤時間、などで読まれるのでしょう。


 そしてスマホというのは、こう、見てもらわなくてもわかると思いますが、とても小さいです。最近のスマホは大きなものが多いですが、それでも、文庫本を開いたサイズよりも大きいことはまずありません。


 しかし、その限られた小さな画面で文字をスクロールし、読まなくてはいけません。

 するとどうなるか。


 あなたは文字を読むために、紙の本のようにページ上に目を動かすのではなくて、画面を動かすことになります。そして、画面を動かすということは、その手間もさることながら、どこに何が書いてあるのか、全体がどうなっているのかを把握するのが非常に難しいということになります。


 画面を動かす時、自分がどれだけ動かしたのか、正確に覚えている人もいません。それと同じように、紙の本では、「このページの前の方、後ろの方、真ん中の方」という覚え方をしていたこともスマホの小さい画面では使えません。「なんとなくスクロールの途中くらいで、こんなことが書いてあった気がする」くらいでしか文章の内容を覚えていられないのです。


 そして、一度読んでみたけどよくわからないから、もう一度読み直して、さらには全体をざっと読んで俯瞰して捉え直す、という、紙の本では簡単にできることが文章のほんの一部しか移せないWeb小説では非常に困難です。

 

 それから画面を見るのは、目に負担が大きく、それもまた、難しい表現、かつての紙の小説のような曖昧で繊細な表現は何度も読み返す羽目になるため、避けられる原因になります。


 そのような構造的な問題の結果、Web小説は一回読んだだけでその内容を覚えていられない。覚えていられないから、設定はどこかで見たことのあるものにするし、文章の表現も凝らずに、従来の紙の小説の書き方と違って、より簡単で感覚的に、すぐに情報を読み取れるものになるのです。



 

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