第18話 告白

「お前さんの過去を見させてもらったよ」

 その声は聞いたことがある。

「あなたは確か……」僕はいった。

「あたしゃ、先日お前を占った、占い師じゃよ」

 僕は目の前が真っ暗であり、その占い師がどこにいるのかわからない。

「どこにいるんですか?」

「フフフ、お主は今夢の中にいる。あの飲み物を飲んだ後に倒れただろう。そこで、夢を見ているのだ」

 確かに、僕はアレを飲んだ後、瞬く間に気を失った。あの飲み物はこの占い師と話が通じる為の飲み物なのだろうか。

「まあ、よい。お前の過去を見た結果、合格じゃ」

「合格? どういう意味ですか?」

「まあ、わしもあんたが想いを寄せている人と逢わせるのに労力を使うのじゃ。その為、誠意が感じられないものは不合格とさせている」

 ……誠意が伝わった。それだけでもありがたい気持ちだった。

「それで、関根さんと逢うことがが出来るんですか?」

「もちろんじゃ。但し、あくまで逢わせることが出来るだけであって、彼女には、お主が逢いたがっていることを事前に知らせるわけではない」

「どういうことですか?」

「今から、お前にやって欲しいことがある。よく聞きな」

 そういわれて、僕は生唾を飲み込み、気を張り詰めて集中した。

「はい」

「まず、お前はこの話をした後に目を覚ます。そこで、近くの最寄り駅のコンビニがあるだろう」

「はい、あります」

「そこに入ると、お前が三年間も想いを溜めていた関根鈴がいる。但し、彼女はお前に気づくことは無い。話しかけられるまではだ」

 ……どうして気づかないのかは分からないが、とにかく僕はその言葉を素直に信じた。

「もし、話しかけられないままだと、彼女はコンビニで買い物を済ませ店を出てしまう。その後に彼女の後を付けると、もうそこには彼女はいない」

「はい」

「全ては、お主が行動をして、彼女に話を告げるのじゃ」

「逢うというのはそういう事なんですね」

「もちろんじゃ。全てはお前の勇気にかかっており、何を話すかによって彼女はこれからどういう風に考えるかだ」

「……はい」僕はどう話しかければいいのか想像した。

「大丈夫だ。考える時間はたくさんある。何時にコンビニに行けといっているわけではない。ただ、コンビニに行けば彼女がいるということだ」

「ということは、一時間くらい考えて、家を出てもいいっていいことですよね」

「もちろんじゃ。まあ、お主が関根鈴とどんな会話をするかにによって、上手くいくか、行かないかは無論お主に掛かっておる。話は、飲み込めたか?」

「はい、分かりました」

「じゃあ、わしは帰るからな」

「帰るってどこへ?」

 僕はそういったのだが、占い師はそれ以上喋ることは無かった。


 目が覚めた僕は、あのビンを飲み干して倒れた体勢のままだった。

 自分がパジャマ姿だったのは良かった。これがパンツ一丁だったら恥ずかしい限りだ。締め切ったカーテンからは差し込む光が夜ではないということを示していた。

 僕はどこも痛みはなかった。前から倒れたので、顎など床にぶつけたとは思ったのだが、それも変なことに無傷だった。

 思わず、自分のスマートフォンで日付を確かめる。どうやら次の日の朝まで気絶をしていたようで、時刻は午前の十時だった。

 僕はあの占い師がいっていた言葉を思い出した。

 ――最寄り駅の近くのコンビニに彼女がいる。

 確かに最寄り駅の向かいにコンビニがある。僕も仕事の帰りしなに、そこのコンビニを何度か立ち寄ったことがある。

 あそこにいるのか……。そう思うと、一気に緊張が走った。

 僕は取り敢えず、身支度を整えた。

 服は一番高いものにしよう。と思い、クローゼットから昔購入した黒のジャケットを羽織ろうとするのだが、彼女はそんな自分を見て嬉しがるのかと困惑してしまい、やっぱり普段着で行こうと決心した。

 後は、どう話せばいいか考えるんだ。

 僕は紙とペンを手にして、こういわれたらこう答えようと書き出していたのだが、途中でやめた。

 正直に誠意を込めて話そうと思った。

 ――それが受け入れられなくてもいい。自分が今まで温めてきたことを話せばいいんだ。

 僕は軽く深呼吸をして、靴を履いて、玄関のドアを開けた。外は眩しいほどキレイな快晴の空だった。

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