聖女様の友人達 後編

「よかったじゃねぇか善人!」


 理解者が増えた俺に後ろにいた茂雄が賞賛を送ってくれた。


 そうだ! …自分の事ばかりではなく、彼の事も忘れてはならない。


 俺は自分の感情を一旦抑え、茂雄の肩を掴むと自分の前へと押し出した。茂雄は俺の行動が予想外だったようで、若干バランスを崩しつつ俺の前へと躍り出る。


 理解者を増やすのは俺だけではない。茂雄もだ。彼をわざわざこの場に連れて来たのはそれが理由だった。


 茂雄も今まで散々「詐欺師面」と言われて周りの人たちから嫌われて来たのだ。彼も自分の内面を見てくれる理解者を増やすべきだ。


 俺は知っている。茂雄が友達を作るためにやっていた数々の努力を。彼の努力もそろそろ報われなきゃならねぇ。


 それにこれは彼への恩返しでもある。彼は今までこんな俺と仲良くしてくれた。悩んでいる時に力になってくれた恩もある。それを返さなくてはならないと前々から思っていたのだ。


 俺は茂雄を自分の前へ押し出すと九条さんたちにこう言った。


「こいつ…俺の親友の塁智茂雄って言うんだけどさ。こいつも俺と同じように外見で『詐欺師面』つって色々差別されて来たんだ。でも中身は全然そんな事は無くて、むしろ誠実でめっちゃいい奴なんだ。だから…こいつとも友達になってやってくれねぇか?」


「よ、善人!?」


 茂雄は俺の顔を見ながら心底驚いたという表情をしている。俺は彼に「グッ」と親指を立てて大丈夫だと頷いた。


「もちろん、俺と同じように最初は慣れないかもしれない。でも彼の内面を見て判断してやってくれないか? 頼む!」


 俺は彼女たちに向かって頭を下げた。


 俺の言葉に最初に反応したのは九条さんだった。彼女は茂雄の前に来るとニコリと微笑む。


 …俺の彼女である九条さんなら茂雄の良い所にも気づいてくれるだろう。


「よろしくね塁智君」


「聖女様…」


 九条さんに続いて彼女の友人2人も動いた。まずみーちゃんが茂雄に「…よろしく」と手を差し出し、近衛さんも2人に続いておずおずと「よ、よろしく」と声をかけた。


 茂雄はまさかこんな展開になるとは思わなかったのか、目じりに涙を貯めて今にも泣き出しそうな顔をしている。


 俺はそんな彼の背中を優しくなでた。


「お前の努力も報われるべきだ」


「ありがとう、ありがとう善人。まさか…こんな俺と友達になってくれる人がお前以外にもできるとは思わなかった」


「礼には及ばんさ。俺も今までお前に散々恩があるからな」


「うっ、ううう…善人…お前は親友だ。俺の一生の友達だ。うっうっ…」


「ああ、俺たちは親友だ」


 茂雄はついに涙をこらえきれなくなり、その場でボロボロと泣き始めた。彼の気持ちは痛いほどよく分かった。俺も九条さんに自分の内面を理解して貰った時は感激して泣きそうになったのを覚えている。


「男同士の友情ってこんな感じなんだ…。グスッ、あたしもちょっと感動しちゃった」


 俺たちの空気に流されたのか、近衛さんも少し涙を流しながら俺たちの方を見ていた。…彼女は意外と涙もろいタイプらしい。


 数分後、泣き止んだ茂雄は改めて3人に向き直った。


「えー…見苦しい所を見せちゃったが、気を取り直して…塁智茂雄だ。見ての通り胡散臭い面をしているが…俺の内面はそうじゃないって事をみんなに分かって貰えるように頑張るよ!」


 茂雄は少し照れくさそうにしながら3人にそう言った。



○○〇



 その後…俺たちは残りの昼休みの時間を使って、みんなで昼食を取りながらおしゃべりをした。お互いに会話する事により、少しでも俺たちの中身を近衛さんとみーちゃんに理解して貰おうとしての事である。


「でも善人と聖女様が付き合ったって聞いた時は驚いたよ。聖女様…こいつ見た目はスゲー怖いけど中身は結構小心者で…でも、無茶苦茶いい奴だから! だから見捨てないでやってくれ!」


「ホントホント、天子がまさか極道君と付き合うとは思わなかった。極道君、天子ってこう見えて意外と我儘だから愛想尽かさないであげてね♪」


 当然だが話題の中心は俺たち2人が付き合った事に関してだった。俺と九条さんは気恥ずかしい気持ちになりながら2人揃ってそれを聞く。


「俺が九条さんに愛想を尽かすなんてありえないよ!」「私も極道君の事は絶対に見捨てないよ!」


 俺たちがそう言ったのは同時だった。それが彼女たちには更に面白く映ったようで中庭は笑い声に包まれる。俺たちは揃って顔を真っ赤に染めた。


「息ピッタリ、ラブラブね!」


「…同意」


「そう言えば聖女様って…」


 茂雄が九条さんに何かを言いかけたが、九条さんは少し渋い顔をしながらそれを止めた。


「…塁智君、できればその『聖女様』って呼び方は止めてくれると嬉しいかな? 私は別に聖女じゃないもの」


「あっ、ご、ごめん。えっと…九条さんでいいかな?」


「ごめんね。あまりその呼び方は好きじゃなくて…」


 …九条さんって「聖女様」と呼ばれるのがあまり好きじゃないんだな。これに関しては俺も初めて知った。クラスの連中も普通に「聖女様」って呼んでるから彼女も受け入れているものだと思っていた。


 …間違って呼ばないように気をつけよう。


 その後、俺たちは昼休みの間中ずっと彼女たちとおしゃべりをしていた。…これで少しでも近衛さんとみーちゃんが俺たちを受け入れてくれると嬉しいな。


 これからも引き続き自分たちの内面を彼女たちやその周りの人にアピールしていこう。そうすればいつかきっと…俺たちの外見に対する誤解は解けるかもしれない。



◇◇◇

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