2-7

 縁佳が扉を閉める。この静寂極まる生徒会室に縁佳と二人っきり……、どうしてこんなことに!?人前でソファって、どうくつろげばいいんだよぅっ。


「Beef or Chicken?」


 足を何度も組み替えていると、縁佳が爽やかな顔で、選択を誤ると床が抜けるようなことを聞いてきた。


「干支ですか……?」


 一瞬の沈黙の後、縁佳は口元に手を押し付けて、ひたすらに笑いを堪えようとしていた。なんか私の血迷った一言を、縁佳は気に入ってしまったらしい。腹を抱えながら、何度も思い出し笑いをしながら、縁佳は何とか倉庫のほうへ、部屋を横断していった。


「あの……、ビーフシチューかコンソメスープか……、どっちがいいっ?」

「両方」

「ですよねー。はい、どうぞ」


 縁佳は机の上に、缶のビーフシチューとコンソメスープを2本ずつ置いた。うーん、具材がないと、食べた気がしない。そもそも、スープの主役はパンだったらしいじゃないか。


「なんでこんな物が……?」

「さあ?賞味期限が今日までだから、飲んじゃおうかなーって。美味しい?」

「ん……、まあまあ」

「そうだよねー。こういうのって、熱々にして寒い冬に飲むのがいいんだよねー」


 そう、ご飯にかけて食べるのが美味しい。白米は全てを受け入れる。


「今日は何の用……?」

「暇だからだよー。ゆるくおしゃべりでもしようかなーって」

「おしゃべり……、何を?」

「あーあー、そんな身構えなくていいのに。島袋さん、体育祭お疲れ様」

「おっ、お疲れ様です……」


 そこで会話は途切れている。気まずい……、干支より面白いこと言える気がしない。心の中でてんやわんやしていると、縁佳がスマホいじり始めてしまった。そうだよね、私、つまらないもんね、ごめんなさい……。やっぱり人と話すの苦手だ。


 縁佳の指先から目を離せないでいると、私のスマホに通知が来た。縁佳が早く開けと言わんばかりに、莞爾としてこちらに視線を送ってくる。


「これ……体育祭の時の……!?」

「そうだよー。かっこいいなんて言ってくれたじゃん。だから、どうぞっ」


 縁佳が両手を張って、精魂の籠った応援を送っている写真が送られてきた。私がどんなに藻掻いても、決して届かない孤高の存在が、そこには写っている。でも私はそんな縁佳に、心を動かされてしまった、憧れてしまった。写真なのに、あの時の声や動き、熱気がたやすく再生できる。


 つい見惚れていると、現実の縁佳が手を振って語り掛けてきた。


「おーい、この私と同一人物ですよー」

「えっ!?いやいやっ、私にはもったいないっていうか、ダメだよ!自分の顔が入った写真を、他の人に送るなんて!」

「すでに色んな人に出回ってるっていうか、そもそもそれ撮ったの友達だし」

「そういう問題じゃないっ」


「えっ、島袋さん、何してるの?」

「一方的に送られっぱなしなのは、フェアじゃないから」


 私は自分のスマホを、震えながら高く掲げてみた。でも人生経験が足りないから、上手く笑えない。隣の縁佳はこんなにもこなれているのに……。


「なっなんで……っ」

「いいからー、あっ後で私にも送ってねー」

「待って、心の準備がぁーっ」


 縁佳は片手を伸ばし、私の人生みたいにブレまくりな私の手を押さえて、シャッターを切ってしまった。しかも、もう片方の手で両頬を挟まれている。恥ずかしさのあまり、後でひっそり消した。

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