第3話 防衛軍の猫獣人

「ここは?」

「防衛軍の地下格納庫だ」

「本当にテレポートしたんですね」

「そうだな」


 戦車から降りたアキュラがしきりに感心していた。ムラート太子の方は放心状態だ。


「温かい……表とは段違いだ……」


 鼻水を垂らしながら放心状態のムラート太子が小声で呟いた。


「ああ。ここは海に突出した半島の地下だからな。暖流の影響で真冬でも温かい」

「そうなのですね。良かった。我々猫獣人は寒さに弱いのです」

「とりあえず司令部へ案内しよう。恐らくハウラ姫もそこにいる」

「ありがとうございます」


 アキュラは深く頭を下げたのだが、ムラート太子は鼻水をズルズルとすすっているだけだった。ララはその様をチラリと見つめ踵を返す。アキュラはムラート太子の手を引き、ララの後を追った。


 廊下を十数メートル移動したところで司令部のドアに突き当たる。ララは金属製のドアをノックし、返事を待たずに中へと入った。


「こっちに来い」


 ララに続いてアキュラとムラート太子が部屋の中へと入る。そこは12畳ほどの畳敷きの和室だった。その中央にやや大柄な長方形のやぐらコタツが設置されていた。そこに足を突っ込んで大きな柑橘の皮を剥いているのはミサキ総司令。黒髪の東洋系美少女だ。

 その横でポリポリとポテトチップスをかじっているのは大柄な白猫獣人のハウラ姫だった。


「姉さま。猫二匹、拾ってきました」

「ご苦労さまでした。ララさんもコタツで暖まりますか?」

「いえ、結構です。私は用事がありますので失礼します」


 ララは踵を返し、さっさと部屋から出て行った。ムラート太子とアキュラはコタツを見つめて固まっていた。


「ぼーっとするな。靴を脱いで上がれ」

「はい。ムラート太子。さあ」


 アキュラとムラート太子が畳に上がって、更にコタツを見つめていた。


「こ、これは? 伝説の掘りごたつですか?」

 

 アキュラの問いにミサキ総司令は笑顔で頷く。


「伝説かどうかは知らないが、オーソドックスな掘りごたつだよ。中に練炭が仕込んであるから気を突けろ」

「練炭とは?」

「暖房器具だ。深く考えるな。さあ、遠慮せずコタツに入れ」


 深く頷いたアキュラはムラート太子と共にこたつ布団をめくりコタツに足を突っ込んだ。その瞬間、二人はブルブルっと震えた後にだらりと弛緩した。


「おおお。これは!」

「太子、これは伝説の掘りごたつでございます。冬の一時を温かく過ごすための暖房器具ですが、その効果は絶大。まさに天界の楽園を三次元空間に現出させる奇跡。神の与えたもうた至高の幸福と言えましょう……」


 掘りごたつに最大の賛辞を並べるアキュラであったが、ムラート太子はコタツの天板に顔を埋めすやすやと眠り始めた。


「我が国でもこの掘りごたつをライセンス生産し販売すれば巨額の富を得ることができるでしょう。太子? ムラート太子?」

「気持ちよさそうに眠っておいでですね。アキュラさんもどうぞ。遠慮なさらないで」


 ミサキ総司令に促されたアキュラも弛緩した顔をほころばせながら眠ってしまった。


「さて、ハウラ姫。この二人は……反逆者なのでは? 逮捕拘束しますか?」

「その必要はないと思います。私も眠くなりました」


 ハウラ姫もゴロンと横になって、寝息を立て始めた。

 

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