院長先生

一週間が経っても僕の声が出なかったから、沙羅ちゃんはまた院長先生の所に連れてきた。


「検査しようか。麻酔して、人間でいう胃カメラみたいなのをするんだよ。それで、喉がちゃんと開いてるかとか腫瘍がないかとか調べてみよう」

「わかりました。お願いします」


僕は、院長先生に預けられた。

調べたって何も出ない。

僕は、知ってる。


「メメ君。猫神様に会ったのかい?」


院長先生は、ゲージに僕をしまいながら言う。


「もしそうなら、ここに手を置いてごらん」


僕は、院長先生の右手に手を乗せた。


「やっぱり、そうか。実は、私もね。昔、飼ってた猫のララに助けられたんだ。五年前、私は余命一ヶ月だと言われた。病院を畳んで死を待とうと決めたのに……。次の日、再検査をしたらね。私の病気は小さくなっていた。だけど、ララは二度と鳴けなくなった」


院長先生は、寂しそうな顔をして僕を見つめる。


「調べたら都市伝説みたいな話がネットに転がっていたんだ。猫神様は、声を欲しがるってね。猫神様は、その声を小さな小瓶に集めて保管しているらしい。それを何に使っているのかはわからなかったんだけどね。メメ君。猫神様にあげたなら、私にはどうする事も出来ない。治せないよ」


僕は、いいよと言う気持ちを込めて院長先生の手を舐める。

院長先生は、泣いている。


「ララの声をね。もう一度、聞きたいと何度も思ったんだよ。私のせいで、声を失くした事が申し訳なかった」


それは、違うよ。

ララちゃんは、僕と同じだよ。

いなくなって欲しくなかったんだ。

僕も誠一に同じ事を思った。

だかは、ララちゃんも院長先生にいなくなって欲しくなかったんだよ。


「メメ君、今日はゆっくり休んでね。私は、医者として君に病名をつけなきゃいけないけど許しておくれ」


僕は、院長先生を見つめて目を瞑った。

次の日、院長先生は沙羅ちゃんに良性の腫瘍があると嘘をついてくれた。

まだ、サイズは小さいので投薬などは必要なく、半年に一度検査に連れてきてもらえば問題ないと話してくれる。

そのかわり、小さい腫瘍が気になって僕は鳴けないと伝えてくれた。


「じゃあ、もうメメの声は聞けないんですね」

「残念ですが、そうなります」


院長先生の言葉に、沙羅ちゃんは酷く落ち込んでいた。


ごめんね。沙羅ちゃん。

だけど、沙羅ちゃんには誠一と幸せになって欲しいから。

だから、許して欲しい。


「メメ。もう鳴けないのね。グルグルも言ってくれないんだね。大好きだったのに……悲しいよ」


ごめんね、沙羅ちゃん。

本当に、ごめんね。

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