第9話 幸運を運ぶは黒き使者也

 今後の目標を事に決定した俺達は、その第一歩として聖都カレイドからミリアドと云う街への移動を開始した。

 リシアさんもイナリさんもミリアドへはファストトラベル出来るのだが、今回はまだ装備も弱くスキルも入手できていない俺の護衛として付いてきてくれている。


 今回の旅路で多少なりともスキルを入手出来れば良いのだが、スキルの取得条件は運が絡むので、上手くいかなくても仕方ないと割り切る事も大切らしい。

 取得条件を踏む確率を上げる最大の方法は、とにかく色々な行動を試す事だとか。

 その一環として、見つけた敵は全て鏖殺せよと二人には脅され……いや、大変貴重なアドバイスを頂く事が出来た。


「イナリさんイナリさん。それで結局、ミリアドには何の為に行くんですか?」

「それは勿論、店を建てる足がかり……になる可能性があるかもしれない集団へと会う為ですねー。ネコニコ商人会、リシアさんは知ってますか?」


 言うまでもないし実際聞かれもしなかったが、当然俺は初耳だ。


「あー、確か各地の武器屋や防具屋、行商人なんかの元締めだったっけ。名前だけは聞いた事あるけど、ミリアドに居るってのは初耳かも」

「そうなんですよねー、僕も一週間くらい前に知りました。そもそもプレイア王国領に来たのも最近で、それまでシュクガン都市連合の方に居ましたからね」

「そこって確か、モチーフが和の国でしたよね。ということは、イナリさんの羽織袴もそこで手に入れた物ですか。……あれ、国境越えって難易度高いのでは」

「……僕が密航者って話、今ここでするべきかなー?」


 悲報、このパーティ俺以外犯罪者だった。

 何だよPK犯に密航者って、確かに二人のステータス見たらどっちにも賞金かかってるわ。


 なお、にやりと最高に楽しそうな怪しい笑みを浮かべたイナリさんは、嬉しそうにご自慢の狐尻尾をぱたぱたと振っている。

 お前実は狐じゃなくて犬の獣人だろ、なんてツッコミを入れたくもなる喜び方だ。

 ……この密航者、黙っていればちゃんと美少女なんだよな。

 喋ったら、色々な意味で全て台無しになるんだけど。


「おっ、モンスターの気配。それじゃアクセンさん、構えて」

「了解しました。……そういえば、まだ武器買ってなかったな」

「そっか、武器屋のドア壊して有耶無耶になってからそのまま!?うっわごめん、私も忘れちゃってた!」

「どうしてまたそんな縛りプレイを……?僕の職業鍛冶師だから、アクセンさんにはまたいつか武器作りますねー。まあ、目下の課題は素手で戦えるかなんだけどさ」


 敵の数は三体。

 人間サイズのデカくて黒いネズミが一体、その三分の一サイズの茶色いネズミが巨大ネズミの両脇に一体ずつ。

 三体とも無害そうな丸い瞳をしているが、奴らは元来害獣なので容赦は要らない。

 毒などの状態異常を使ってくる可能性もあるし、俺のプレイヤースキルも考慮して接近戦を避けるのが理想だな。


「スキル使用、『仮初の金貨』!」


 戦闘準備として、まずは弾丸を補充しよう。

 リシアさんに金を借りる事で不本意にも入手したスキル『仮初の金貨』は、これを使って何かを買う事も、他者に渡す事も不可能なを一時的に生成する。

 スキルを使えば使う程生成金額も増えるらしく、今回手に入ったのは1000ゴルド。

 

 無論、このスキル単体では何の意味もないが––––––––


「『金貨飛ばし』!」


 スキルの使用コストとして使う分には、何ら問題が無い。


 使用した100ゴルドはたった一枚の金貨に集約され、右側に居た茶ネズミの元まで高速で飛翔する。 


「よし、まずは一体……!」


 残る二体が俺に牙を剥く。

 金貨飛ばしのリキャストは10秒、その間をどうやって凌ぐべきか。

 茶ネズミの方は最悪殴りでも何とかなるとは思うが、問題は黒ネズミの方だ。

 殴り合うには分が悪いし、何よりアイツは図体の割に俺より早い。

 周囲の雑魚から倒すんじゃなくて、初手で1000ゴルド全部ぶつけるべきだったのかもしれんが、今更悔やんでももう遅いな!

 

 リキャストは後8秒。

 俺に噛みつこうと近付いてきた茶ネズミの上に飛び乗り、背中を借りて跳躍する。


 後5秒。

 自分の身体能力に驚きつつも、黒ネズミの上に着地する。


 後3秒。

 背中から全力で後頭部を殴り付けるが、思ったよりも手応えがない。

 やっぱり、武器無しは駄目なのか。

 最初に居たエリアの敵は拳でも勝てる程弱かったのに、都の裏手側に来ただけでこんなに強くなるとは。


 黒ネズミはその場でスピンして俺を空中に弾き飛ばす。

 訳分からん攻撃を喰らったが、俺の時間稼ぎは終了した。


「じゃあな黒ネズミ、精々俺の全財産を喰らっとけ––––––––『金貨飛ばし』!」


 金貨が空を切る。

 黒ネズミの体を穿ち、金貨は地面に着弾する。

 俺も着地を失敗し、背中から地面に落下した。


『実績『福呼びし黒鼠』を獲得しました』

『スキル『打出の小槌』を獲得しました』


 しかし、何故かスキルを取得出来たみたいだ。

 ゆっくりスキルの効果を確認したいが時間がない、一体だけ残された茶ネズミがすぐそこまで迫っている。

 取得したスキル名は先程横目で確認できたが、『打出の小槌』って昔話とかに出てくる、振ったら宝物が出てくるあの小槌だよな?

 ……槌なら殴れるよな? 


「どうなるか分からないけども、『打出の小槌』ッ!」


 スキルを発動すると、俺の右手に小さな赤い木槌がされた。

 武器を出現させるスキル、なのだろうか。

 

 俺に覆い被さらんと飛び込んできた茶ネズミを、起き上がりながら打出の小槌を精一杯振り上げ、間一髪で撃墜する。  

 小槌は少量のゴルドを残し、消えてしまった。


「……勝った。いや、なんで俺は雑魚敵相手に苦戦してるんですか」

「アクセンさん、お疲れ様。思いの外アクロバティックな戦闘スタイル何だねーとか、最後のスキル何?とか聞きたい事はあるけど……一個だけ報告を。配信のコメ欄めっちゃ沸いてたよ!設定で共有できるけど、見る?」

「流石に恥ずかしいので遠慮させて下さい……」


 ミリアドを目指す旅路は、まだ続く。


『打出の小槌』

一度攻撃したら壊れてしまう、打出の小槌を装備する。

打出の小槌によって敵にダメージを与えるとゴルドを獲得し、また与えたダメージが大きいほどゴルドの獲得量も増加する。

効果時間/10秒 リキャスト/20秒

発動条件/利き手に何も装備していない状態であること


 









 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る