第14話・俺の戦い

ヘッドホンをはめて、自転車にまたがる。

頬を切る冬の朝の風。

熱のこもった脳みそを程よく冷やしてくれる。


「自転車は降りて、ここからは手で押して進んでください」


東農大が視界の端に見える場所まで来ると、大学職員から道が狭いから歩いて進むように言われた。

ロードバイクから降りる。

膝が震えているのは緊張じゃない。

武者震いだ。


門の前にいる案内役から「自転車はこちらに」と指示される。

その後も数メートル毎に人が立っていて、これだけ手厚ければ動画なんていらなかった。

ここで迷子になる奴は京大に行けない。


受験票片手に机の間を歩く。

すぐに自分の席が見つけられた。


背負っていたボディバッグから鉛筆と消しゴムを取り出して、受験票と一緒に机に置く。

バッグは足元に置いて、椅子に座って、目を閉じた。


ヘッドホンからはイカ討伐のBGMが流れ続ける。

俺はあのとき、一度死んだんだ。

イカに勝って、だけど死んだ。


なにも残っていないと思って、ヤケも起こした。

過去が全部返ってきて、本当に独りになった。


だけど、俺にはなにも残っていないわけじゃない。

俺は◯☓オックスだ。

イカを倒した◯☓オックスだ。


今日の試験なんて、誰かと呼吸を合わせて、足並み揃える必要がない楽勝なバトルだろ。

俺は勝てる。


肩をそっと叩かれた。

目を開けると、試験官がそろそろ時間だと告げる。


曲を止めてヘッドホンを外した。

さあ、戦いを始めよう。

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