第49話:このデートは母娘デートだったのか?



「ちかれた……」


 洋服を、取っ替え引っ替え。


 いわんや、着せ替え人形よろしく。


 次から次へと洋服を着替えさせられ。


 母さんとアカネさんに見せては、あーでもない、こーでもない、と。


 何この羞恥プレイ。


 いや、まあ、洋服自体が恥ずかしいと言う訳では、無いんだけどね。


 肌の露出低めで、ダボっとした感じのものばかりだし。


 基本的には長い丈で、ゆとりがあって、身体のラインは大きくは出ないもの。


 ただし、せっかくの『クッション』や『上げ底』の効果が発揮できるように、との配慮もしつつ。


 わりとピッタリ目のブラウスにふわっとしたジャケットやカーディガンを重ねるとか。


 あと、アカネさんのアドバイスで、『ノドボトケ』を隠すため、ハイネックのノースリーブとか、スカーフをアレンジして首に巻いたりとか。


 『しの女』の制服ではどうしようもないけど。


 私服ならいくらでもアレンジできる、と。


「トップスとボトムの組み合わせでアレンジできますし、今日のところは上下三点づつくらいでよろしいんじゃないですか?」


「そうですねー、お値段の事もありますしー」


 ある程度、満足したのかそろそろシメに入る、アカネさん。


 試着はまぁ、無料として。


 さすがに全部購入する訳にもいかず。


真綾まあやは、どう? どれか気に入ったのとか、ある?」


「いや、もう、どれでもいいよ。母さんのお気に入りで」


 どうせお金出すのも母さんだしねっ!


「そんなー。遠慮しなくていいのよ?」


「いや、遠慮とかじゃなくて……」


 遠慮するなら、全部遠慮したいところだったりするが。


 さすがに、それは許してもらえないだろう。


 と、言うか、母さんが泣きそうだから、ここは堪えるしか。


「そう言わずに、真綾もちょっと見てごらんなさいよー」


 と。


 最後に試着した、タグ付きのコーディネートのまま、店内へ。


 正直。


 女の子のファッションとか、よくわかんないし。


 どういうのが似合うとか、まだ全然わかんないし。


 でも。


 ふと、目に付いた服。


 黒地に白のレースが散りばめられた、いかにもお嬢様風なドレス風の衣装。


 ゴスロリ、ってヤツだっけ?


 その服だけが手の届かない、高い場所に飾られている。


 じっと見てたら。


「それが気に入ったの?」


 母さんに気付かれたが、すかさずアカネさんが。


「あぁ、申し訳ないです。残念ながら、こちらは試作品でして、商品ではないんです」


 との、こと。


 そして、よく見たら服の脇に写真が飾られている。


 この服を着た少女が、豪華な赤い椅子にしなだれかかっている写真。


 可愛い、と言うよりは、妖艶な雰囲気すらある表情。


「それ、若い頃のウチの旦那なんですよ」


 おぉ、若い頃のユキトさん!?


 ウチも頑張れば、ユキトさんみたいに……。



 結局。


 自分では選ぶ事が出来なかったけど。


 母さんチョイスで数点、買って。


 せっかくだから、と、一着、そのまま着替えて。


 帰りがけに女装ショップの方にも寄って、ユキトさんに挨拶かたがた。


「今日はすみませんでした、ご案内できなくて」

「いえいえ、アカネさんに色々アドバイス頂きまして、ありがとうございました」

「はい、また何かありましたら、是非」


 取り寄せを頼んでいた商品も受け取って。


 帰りに、さらに別のお店で買った洋服に合う靴まで買って。


「いやぁ、娘とお買い物できるなんて、ホント、楽しかったわー」


 行きよりも、さらにルンルンな母さんと。


 苦笑するしかない、ウチとふたり。


 母娘おやこデート(?)終了。



「ちかれた……」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る