第二部 第1話 初めての夢中

 ※第一部と主人公・文体が違います。


 運命だと思った。

 その時の煌めきはずっと忘れることはないだろう。

 頭を殴られたような衝撃。もうずっと手放すことはないだろうと思っていた。

『ママこの子買って!』

 おもちゃ屋さんの人形コーナーで、女の子は母親の手を引っ張って歩みを止めさせる。

 驚いた母親は歩みを止めて、娘の指さす方へ顔を向けた。

『人形?』

『へえー、アンティーク風の人形か。こりゃ完成度が高いな』

 母親の隣にいた父親が、その場で屈み人形の説明文を読み上げる。

『アンティーク可愛いがコンセプトのお姫様。球体関節なのか。王様たちの日常を自分の手で作り上げよう。ね』

『でも子供向けの人形には見えないわね』

『そうか?髪の毛アレンジできるみたいだし、着せ替えも可能。ネイルもしていいってさ』

 父親の方は買ってもよさそうに楽しそうに話を進める。母親の方はどこか決めきれないような表情を父親の方へ向ける。

『でもついこの間パズル買ってあげたじゃない?もうしばらく買わなくていいと思うのよ』

『うーん。そう言われると……。でもあんまり物を欲しがるような子じゃないんだからさ』

『でもあんまり買ってばかりも……』

『マーマ!』

 両親が悩んでいると、娘が母親の腕をくいくいッと引っ張った。

『買って!』

 懇願する娘の顔は必死だった。

 今までにないほどに強く腕を引っ張られる。

『でもね。この間パズル買ってあげたでしょう?さっきお菓子も買ったし……』

『じゃあいらない!』

『……え?』

 思ってもみなかった娘の言葉に、母親だけでなく父親すらも声を上げた。

『お姫様買ってくれたら他は何もいらない!だから買って!お願い買って!買って買って!』

 このままでは周りに迷惑をかけてしまうほど駄々をこねられる。

 困った母親はしゃがみ込み、娘の肩を強く抱く。

『本当に何もいらないの?』

 娘は何度も強く頷いた。

『何もいらない!だから買って!』

 父親も屈みこみ、娘に一つ質問を投げかけた。

『大切にできるかい?』

『うん!絶対にする!』

 両親は立ち上がりお互いの顔を見合う。

『良いんじゃない?折角なら王様とお妃様も欲しいな』

『まあ、シリーズ揃えるくらいなら……。数も少なそうだし』

 両親は下方にある期待を込めた顔をしている娘を見る。彼女は両親の答えを待っていた。

『我がまま言っても他のおもちゃは買わない。それは守るのよ』

 娘は母親の言葉に喜び、母親の胸へ飛び込んだ。

『守る!守るよ!お姫様たち以外要らないもん!』

 叫ぶ娘の頭に、父親が大きな掌を乗せる。

『じゃあ早くお姫様を選んであげなさい。大事な大事なお人形。後悔無いようにな』

 父親に言われて、娘は箱に入ったお姫様を選び始めた。

 五分ほど悩んで手に取ったお姫様は、手前から三列目の子だった。

『この子にする!』

『いいのね』

『うん!』

 娘は箱を抱きしめて両親と一緒にレジへ向かった。

 満面の笑みを浮かべて娘は言った。

『あたしの妹なの!ずっとずーっと一緒なの!』





「……姫ちゃん。ずっと一緒が良かったよ」

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