3.せいくらべ

「おぬし、どこへ行くつもりであった? よもや、家出ではあるまいな」

 老人、八重波やえなみは問うた。

「べーつにぃー。ただその辺歩いてただけだけど?」

「ほうほう、どうでもこうでも構わんが、捕まえられてよかったわい」

「で、何の用だよ」

 誘鬼ゆうきは隣を歩く八重波を見た。幼少より馴染みのあるこの老人は、初めて出会った時から白髪交じりの老人だった。城の若君である飛鳥あすかの守役として、飛鳥とほぼワンセットで動いていた。そんな老人の姿をちらと見て、誘鬼はふと違和感を覚える。

「なあ、爺や」

「なんじゃ?」

「背ぇ縮んだ?」

 横を歩く馴染みの老人は、出会った頃は自分よりずっと大きかったと思う。思うのではなくて、実際はるかに大きかった。少し前に会った時も、横に並べば頭ひとつぶんといわないまでも、目線は上をいっていた。それなのに今日はその時よりも視線が上を向かないのだ。だから誘鬼は聞いてみた。

「お主が成長したんじゃろ。先日若様も同じようなことを言っておった」

「なーんだ。そうかい」

 誘鬼は肩をすくめてみせた。

「で、飛鳥、何の用だって?」

「行けば分かる」

 そう言うと、八重波は鼻からどっぷりとため息吐いた。

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