第12話 彼らに言える人間はいない
――K県警 捜査本部
『君たちの報告は、分かった……。座りたまえ』
「「ハッ!」」
上座にある長机で、横に並んでいる幹部は、誰もが難しい顔。
現場に行ってきた男女は、ガタガタと座る。
上座の1人が、全体に告げる。
『
資料を見た幹部が、改めて告げる。
『
この母娘をつついても、防衛省との全面対決だ。
ざわつく、捜査本部。
それを
『現状では、
高度な柔軟性を維持しつつも、迅速な解決を!
幹部は、報告したばかりの男女を見た。
『刑事部の捜査一課にいる
「「ハッ!」」
『本庁は、両名に監視システムとデータベースを閲覧する許可を与え、専門のスタッフに協力させます』
『警視庁も、両名に必要な支援を行います。室矢家は東京で暮らしているため、担当者にいつでもお問い合わせください』
◇
場所は、県警本部の内廊下。
壁に自販機があって、ベンチも並ぶ。
柔道をやっていそうな雰囲気――潰れた耳を見れば、一目瞭然――の吉見は、片手で紙コップを持ったまま、ため息を吐いた。
「まいったな……」
「すみません、班長……。私が彼女を押さえていれば」
スーツを着た女、八代
「いきなり消えたんだろ? 監視カメラでも、その通りだったし……。『梁あかり』は失踪した学生や教授について、同じように消した犯人か、詳しい事情を知っている重要参考人。いつもなら、家族や友人から連絡してもらい、任意で同行してもらうが……」
捜査本部でしつこく言われたように、それをやれば、国内の異能者が騒ぐし、下手すればクーデターだ。
何よりも、梁家は防衛省の中枢にいる。
強引に事情聴取をすれば、そちらを激怒させるだけ。
沙矢は、捜査のパートナーである吉見に聞く。
「室矢くんのほうは、どうでした?」
「ん? IDをチェックして、すぐに別れた。梁有亜とは、高校時代からの友人だそうだ。あっちは白だな!」
「その室矢くんに協力してもらうことは?」
吉見は、首を横に振った。
「やめておけ! あいつは、数年前に本庁のキャリアをまとめて辞めさせたんだぞ?」
「え?」
「ほら! 都内の特別緊急配備で大騒ぎのうえ、多国籍軍の艦隊が攻めてきたネイブル・アーチャー作戦やら、東京エメンダーリ・タワーの事件やらで、大変だったろ?」
「ああ……。本庁と警視庁が、どちらも大騒ぎだったらしいですね?」
「特別緊急配備で追われたのが、その室矢だぞ?」
「はあっ? どういうことですか!?」
紙コップを落としかけた沙矢の大声に、吉見は周りを見た後で、端的に言う。
「詳細は省くが、
「そうですか……。警察に協力する気はないでしょうね」
いくら隣接していても、他人事で数年もたっていれば、こんなものだ。
日本が吹っ飛ぶか、植民地になりかけたとは、夢にも思わない。
吉見は、沙矢に告げる。
「とにかく、室矢はダメだ! 思っていたより話が通じたものの、どういう展開になってもおかしくない。例の『梁あかり』を見つけて、そいつの身元を確認――」
ピロロロ
「はい、吉見です! ……はい。……分かりました。すぐに現場へ急行します! ご協力ありがとうございました」
紙コップを捨てながら、走り出した男。
察した沙矢も、後を追う。
「梁あかりは、どこで?」
「
捜査車両に向かいつつ、沙矢は呆れた。
「そっちで接触しなさいよ……」
「話したのはお前で、直接見たのは俺たち2人だ! よそに持っていかれないことを喜べ!」
言いながらも、それぞれにドアを閉めて、シートベルトを下ろした。
エンジンをかけた沙矢は、ハンドルを回し、県警本部の駐車場から外へ。
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