第3話 ストロベリーは食べごろになったー②

 姿を現した天ヶ瀬あまがせうららは、実弾のアサルトライフルを数発で指切りしながらも、歯噛みする。


「メグさん……」


 片膝をついたまま、廊下の先にいる男たちに撃ち続け、応戦されたことでの弾丸がヒュンッ! シュッ! と近くを通りすぎ、もしくは、壁や床に当たって破片を飛ばしてくる。

 歩兵のヘルメットは、この破片を防ぐため。


 先ほど、機動捜査隊の2人が耳にした音は、咲良さくらマルグリットが乗っていた車両が撃たれ、爆発した音だった……。


 不安でしょうがない麗に、ミーティア女学園の超空間を利用したリアルタイムの戦術データリンクで、マルグリットの声。


『聞こえる? こちらは全高4mのMA(マニューバ・アーマー)に襲われたわ! 車両は爆散! 手持ちの装備だけで対応して! 少なくとも2機! そちらにも行くと思う。制限なしで戦いなさい! 生け捕りの必要はなし』


「全力の制圧、了解! ……MAか」


 麗は、立ち上がった。

 FPSのように相手を見たまま、横移動。

 

 相手の射線を切った。


 マンションの壁を背にしたまま、小銃の空マガジンを下へ落とし、次のマガジンをめて、片手でチャージングハンドルを引く。


 そのハンドルが戻りつつ、シャカッと装填された。


 データリンクで、問いかける。


「MA? どこの勢力ですか?」


『分からない! ただ、動きが良すぎるし、全体のデザインも……。こっちは集中するから、後でね!』


「はい!」


 バババと、うるさい小銃の音が消えて、軍靴ぐんかのような足音が重なる。


 全員が走っており、10人前後。

 遠ざかるように、どこかを目指しているようだ。


 対する麗は肩付けしたアサルトライフルを両手で持ち、銃口を下げた状態。


 すでに制限はなく、殺して構わない。


 銃口を上げ、トリガーを引くだけで撃てるまま、呼吸を整えた。


 自分を向いている銃口2つに気づき、そちらを見る。


 片手で上下に開いた手帳を見せていた中年男が、パタンと閉じて、上着のポケットに仕舞った。

 空いた手は、グリップを包み込むように添える。


「警察だ! 銃を捨てろ!」

「頼むから、指示に従ってくれ」


 麗は、その雰囲気から、刑事のようだと思う。


 一般人にしてみれば、刑事と機捜きそうのどちらでも同じ。


 ふーっ! と息を吐いた麗は、グレーのシューティンググラス越しに、何もない方向を見た。

 そのまま、視線で追う。


 動かない少女を見た櫻井さくらいは、銃口を向けたまま、部下に命じる。


影山かげやま!」

「ハッ!」


 影山は拳銃をホルスターに収めて、背中側のベルトから手錠を取り出す。


 相手が両手で抱えたままの小銃を取り上げようと――


「早く逃げないと、死にますよ?」


 銃口を向けた男2人がいるのに、少女は関心を払わない。


 それに答えず、影山は上から小銃を押さえようとするも、クオンッ! と不思議な音がして、同時に突風。


 思わず固まった男2人が改めて見れば、一瞬で遠ざかった少女は窓があった部分から外へ飛び出す。


「ここ、10階だぞ!?」


 櫻井が叫んだ。


 異能者でも耐えられないことから、2人は急いで駆け寄り、そちらを見た。


 けれど、下に目立つストロベリーブロンドの髪はなく、地面に叩きつけられるドシンという音もない。


「外を伝って、逃げたか?」


 櫻井は拳銃を持ったまま、首を巡らせる。


 だが、どこにも見えず。


 他の建物も廃墟で、割れた窓ガラスから内部へ入り込むことは容易だ。


「しくじった――」

 タタタンッ!


 アサルトライフルの発砲音だ。


 周囲に反響していて、くぐもった様子はない。


「屋上!? チッ! さっき逃げた連中のほうか……。行くぞ!」

「は、はいっ!」


 櫻井と影山は、上へ続く階段を目指す。



 ◇



 廃墟のマンションから飛び出した麗は、室矢むろや家の嫁データリンクによる共有で魔法を発動。

 重力ベクトルを逆にする。


 上へ落下していった麗は、ボロボロの屋上にいる男たちを見た。


 両手でアサルトライフルを構え、今度は下へ落下しつつ、パパパと連射。


 日光で輝くピンク色の髪と、はためく淡い色のワンピースに対し、眼下のテロリスト集団は頭を撃ち抜かれた。


 弾丸が抜けた側に大きな穴で、崩れ落ちつつ、一部の男は無意識にトリガーを引き、明後日のほうへ銃撃。


 重力とベクトルを制御した麗は、ふわりと、屋上に降り立った。


 残弾はあるが、マガジン交換。

 金属の擦れる音。


 次の瞬間に横へ飛び、魔法で身体強化をしたのか、驚くほどの距離を移動した。


 そのすぐ後に、さっきまで立っていた屋上が崩れ落ち、内部の鉄骨やらを剝き出しに……。


 両足でブレーキをかけた麗は、低い姿勢のまま、敵がいる方向を見た。


 チュイイイインッ! ドガガッ!


 近くの屋上を滑ってきた巨人が、両足で下を凹ませつつ、停止した。


 4mのMAだ。


 両手で艦砲のようなマシンガンを持ったまま、紫で塗装された機体の頭で、目のような部分を光らせた。


 マルグリットが乗っていた車を破壊したうちの、1機。


 駆動部分を凍らせようと、麗が魔法を発動させようと――


 MAは甲高い音を立てながら、両足で立ったまま、滑り出す。


「えっ!?」


 瞬く間に、MAは距離を詰めた。

 ロボットの動きではない。


 ドドドと、マシンガンがうなり、麗に襲い掛かる。

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