悪役令嬢として無事追放されたが2度目の転生で溺愛される

曇はたひ

1章

第1話

「ふん、ふん、ふふん」


 鼻歌を歌いながら帰るある大学生のカバンには今流行りの乙女ゲームが入っていた。

 

 ゲームの中でヒロインとなって王太子との数々のイベントをクリアしていき、ハッピーエンドを迎えるといういたって王道な内容である。


 近々、長年ファンも待ちわびたDLC・・・・・・いわゆるダウンロードコンテンツが新たに追加されることもあり、中々手が出せずにいたものにようやく手を出すに至ったのだ。

 帰ったら速攻でプレイするべし。プレイしないでなんとする、という感じだ。


「ただいまぁー」


 無人の部屋に声を掛ける。

 その声に意味があるとすれば靴箱の上に置いてある自作の木彫りうさぎに対してだけだろう。


 私は十九歳の頃に都内の大学へ進学し、上京してからこのアパートで一人暮らしをしていた。

 建てられてから結構経つみたいだが、駅から近く好立地だったためすぐにここに決めた。


 リビングにゲームと同じく近くのスーパーで買ってきたエナジードリンク、お供のおつまみを置く。

 今日はガッツリ一日中ゲームをプレイするつもりだ。


 この日のために溜まっていた大学の課題にも徹夜で手を付けまくった。ゆるゆるのパジャマに着替えてドリンクと食べ物を側に移動させる。


「我ながら完璧だ・・・・・・!」


 これでなんの気兼ねもなく楽しみにしていたゲームをやりまくれる。誰も私を止められるものはいない。


 ―――さぁプレイ開始といきますか!


 頭にガンガン杭を打ち付けられているような痛みも忘れてパソコンの電源を入れる。

 このゲームはゲーム機器ではなく、スティック状のメモリをパソコンに読み込んでプレイする。最近は珍しくなってきたやり方だ。


 パソコンにデータを読み込むまで数分時間が残っている。冷静になる時間ができ、そこで私はようやく自身の体の不調に気が付いた。


 瞼が重い気がするし、頭が超絶痛い。


 意識するとますます痛みは増していく。多分、徹夜が何十日と続いたからだ。


「頭・・・・・・痛い」


 ―――ドンッ


 立ち上がろうとした瞬間、足に力が入らず私は床に倒れ伏した。その間にも激しい頭の痛みは止まることを知らない。


 私は瞬間的に思った。


 ―――ヤバい。ヤバい、ヤバい、ヤバい。


 やがて激痛を感じながら意識が遠のいていく。

 ゲームを一人でやるためしばらく友達とは連絡を断ってしまった。このままだと数日は誰にも気にかけてもらえない。


 ―――ヤバい。


「・・・・・・だれ、か。電話しないと」


 置いてあるスマホに手をかけるべく机に手を伸ばす。その手は腕から小刻みに震えまくっていた。

 こんなことならゲームクリアしてからにしてよ!


 そして必死の抵抗も虚しく私は頭の激痛に苛まれながら死んだ。


 これが「私」の前世での最後だった。

 



―――――――――――――――


わりと前置き長めです。

気長に見て頂けると嬉しいです。

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