在地球異星人犯罪特別警察ーa.s.c.pー

殿下

事件ファイル1 勝者がすべてを手にする

第1話

「...... お掛けしたナンバーは旧世紀のヒット曲。ABBAでThe Winner Takes It Allでした。時刻はまもなく6:00をお知らせします。今日も元気に頑張りましょう。」

 

 戸口信は時報を聞かずにラジオを切った。カップに入ったコーヒーを飲み干し、スーツを羽織る。ジャケットの左胸には、金色のバッチが光っていた。戸口は、紙と本が散乱している机の上から必要な資料を鞄に入れる。玄関に向かうと、ドアの前に一枚のメモが貼ってあるのに気づいた。それは、妻からのものだった。


「あなた、今日は早く帰ってきてね。息子の誕生日だから、ケーキを買っておいたわよ。愛してる」

 

 戸口はメモを手に取ると、穏やかな笑みを浮かべた。今日は息子の誕生日だったのか。仕事に夢中になりすぎて、すっかり忘れていた。妻はいつもそんな彼を支えてくれていた。メモをポケットにしまい、ドアを開ける。すると、目の前には黒いスーツに身を包んだ男が立っていた。男は戸口の顔を見ると、にやりと笑った。


「おはようございます、戸口先生。今日はお仕事ですか?」

男の声は無機質でぶっきらぼうだった。

「何者だ君は!警察を呼ぶぞ!私は忙しいんだ。すぐに私の家から立ち去れ!」

戸口は目の前にいる不審な男を睨んだ。

「私はこういう者です。」

そう言うと男は前髪を右手でかきあげる。額には地球人にはあるはずのない第三の目が妖しく光っていた。

「君はギル星人か、次の選挙の際には私に投票してくれ。まあ君たち異星人に選挙権が与えられることがあったらの話だがな。私は急いでいるので失礼するよ。.......まったく、異星人は身の程をわきまえるということを知らないのか。」

戸口は眉をひそめて、嫌みたっぷりに答えた。

「そんな口を叩けるのも今のうちですよ。」


戸口が身構えようとした瞬間、男の額にある第三の目から眩い光が放たれた。戸口は血を吐きその場に倒れ込んだ。男は戸口が持っている資料の入った鞄を奪い、悠然と立ち去っていった。


在地球異星人犯罪対策警察(略称:a.s.c.p)に所属する刑事伊波は、足早にビルの一室へと向かう。彼がドアを開くと、デスクに座る初老の紳士が口を開いた。

「伊波、急に呼び出してすまなかったね。」

「いえ、全く問題ありません。これが私の仕事ですから。部長、今回はどういったご用件で。」

「君は国会議員の戸口信について知っているか?」

「はい、少しは。戸口先生は特別会計の不正について追及していたとか。」

「その通りだ。彼は政治の闇に切り込む勇気ある議員だった。そんな彼が今朝、自宅近くで死亡しているのが発見された。そして、犯行現場近くで右翼団体の幹部だと思われる男の死体が見つかった。」

「その男と事件の関係性は?」

「男の持ち物を調べると、戸口先生が持っていた鞄が見つかった。警察は男を犯人として周辺を洗うつもりらしい。しかし、奇妙なことに鞄には何も入っていなかった。戸口先生は国会質問を控えており、今日は秘書との打ち合わせだったそうだ。」

「それは不可解ですね。」

「それに、戸口先生の左の中指が切断されていた。」

「切断されていた!?それは何の意味があるんですか?」

「分からない。もしかしたら、何かの暗号かもしれない。戸口先生が何かを知っていたのかもしれない。」

「部長はその捜査を私に行えと。話を聞く限りでは異星人による犯罪とは思えないのですが........」

「それを調べるのも君の仕事だ。頼んだぞ。」

部長は厳しい口調で言った。

「はい、わかりました。」

伊波は部長に一礼して部屋を出た。



伊波はエレベーターに乗り、地下の駐車場へと向かった。彼は愛車に乗り込み、エンジンをかける。つけっぱなしにしていたカーラジオからDJの騒がしい声が聞こえてくる。

「旧世紀の素晴らしい歌手を紹介するこの番組。本日は、サンタナ特集でした。いよいよ、最後の曲を紹介し皆さんとお別れになります。サンタナでEvil Ways......」

伊波は、高層ビルに囲まれた街を背景に犯行現場へと急ぐ。


 伊波は、犯行現場となった戸口信の自宅に到着した。立ち入り禁止のテープが張られた門をくぐり、現場検証を担当している小山田刑事と合流した。小山田刑事は、地球人犯罪を担当する警官である。小山田は伊波に事件の詳細を説明した。

「被害者は、自宅の駐車場で刺殺されたと考えるのが妥当だろう。凶器と思われるナイフが胸に刺さっていたが、指紋は一切付いていなかった。さらに、現場近くで右翼団体幹部の死体が発見された。死体の手には戸口の鞄が握られていたよ。しかし、ご丁寧に鞄の中身は抜き取られていた。」

「被害者の鞄の中には何が入っていたのでしょうか?」

「それが分からないんだ。秘書に聞いても、具体的には教えてくれなかった。ただ、特別会計の不正に関するものだということだけは言っていた。」

「特別会計の不正って、それは大きな話ですね。」

「そうだ。被害者は、国会でその問題を追及するつもりだったらしい。そのために、色々と情報を集めていたんだろう。」

「やはり地球人が組織する政治団体が怪しいとお考えですか?」

「そう考えるのが自然だ。だが、その情報がどこにあるのか、誰が持っているのか、それが分からないと捜査は進まない。」

「被害者の家族や知人に聞いてみましたか?」

「もちろんだ。だが、誰も何も知らないと言う。被害者は、仕事のことは家に持ち込まない人だったらしい。」

「では、被害者と関係のある政治家や官僚に聞いてみるとか。」

「それもやってみたが、同じように何も知らないと言う。被害者は、一匹狼で動いていたんだ。仲間にも打ち明けなかったんだろう。」

「それは厄介ですね。」

「そうだ。被害者が何を知っていたのか、それが分からないと、この事件の真相にはたどり着けない。」

「では、もう一つの謎である、被害者の左の中指の切断についてはどうですか?それには何か手がかりはありませんか?」

「それも分からないんだ。被害者の指は、切断された後に現場に置かれていた。切断された指には、何かの暗号が書かれていた。」

「暗号?それは何ですか?」

「これだ。」

刑事は、袋に入った指を伊波に見せた。指の爪には、赤いペンで何かの記号が書かれていた。

「これは何ですか?数字ですか?文字ですか?」

「それが分からないんだ。どう見ても、一般的な暗号ではない。何かの特殊なコードだと思う。」

「それは、被害者が残したメッセージですか?それとも、犯人が残したメッセージですか?」

「それも分からないんだ。被害者が残したとしたら、誰に向けてのものなのか。犯人が残したとしたら、何を意味するのか。」

「この暗号を解読できれば、事件の手がかりになるかもしれませんね。」

「そうだ。だが、この暗号を解読できる人は、どこにいるか全く見当もつかん。」

と刑事は困ったように答えた


 伊波は、切断された指に書かれた暗号をじっと見つめた。彼は、その暗号が何を意味するのか、ひとつの仮説を思いついた。それは、被害者が持っていた書類の情報を隠した場所を示すものだという仮説だった。もし、その仮説が正しいとしたら、その場所を突き止めることで、事件の真相に近づけるかもしれないと思った。しかし、その仮説を検証するには、暗号の解読が必要だった。伊波は、刑事に尋ねた。


「この暗号について、専門家に相談したり、分析したりしてみましたか?」

「もちろんだ。だが、誰も解読できなかった。暗号解読の専門家や、コンピューターのプログラムも使ってみたが、全く手がかりがつかめなかった。」

「それは困りましたね。」

「そうだ。この暗号が解読できない限り、この事件は解決できないかもしれない。」

伊波は、爪に描かれた記号をもう一度見る。彼は考えた、その記号が何かの言語や数字に変換できるのではないかと。伊波は、記号を写真に収めると足早に事件現場を後にした。

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