episode1-27 作戦会議
どんなモンスターが指揮官なのか、相手がどんな戦術を使ってくるのかというのも重要だが、それ以前の問題として一つ確認しておくべきことがある。
「如月、お前の異能は連発できるのか?」
「え、知らないけど」
如月はきょとんとした顔で答えてから星の杖へと視線を落とす。
パッと見で大きな変化はないが、よくみるとランプの色が緑から赤に変わっている。
知らないけどじゃないんだよ。それが出来るか出来ないかで全然話は変わってくるだろうが。
「人のいない方にもう一度ライトニングを撃ってみろ」
「はいはい、やれば良いんでしょやれば」
如月はやれやれとでも言いたげな返事をしてから星の杖を坑道の先へ向ける。
まるで俺が我儘を言っているかのような態度だが、これは絶対に必要な確認だ。もし如月の異能を魔力切れになるまで連発できるのなら、俺たちは守りに徹してひたすら如月に撃たせておけば良い。グリフォンやドラゴン、ハイエルフのような高位のモンスターはそれだけで倒せるほど甘くはないだろうが、この段階のダンジョンでそのレベルのモンスターが指揮官をしていることはまずない。最悪でも、ゴブリンキングやワイバーン、エルフあたり、運が良ければゴブリンジェネラルやハイオーガ程度で済むかもしれない。いずれにせよ、至近距離のライトニングなら致命傷になるはずだ。
「オーダー・ライトニング」
『Error、冷却完了まで後1分27秒』
星の杖は如月のオーダーに反応して言葉を返すが、それは先ほどライトニングが発動した時とは全く異なるものだった。
目が眩むような光が生じることはなく、耳を塞ぎたくなるほどの音が轟くこともない。何も起きず、静寂な時間が過ぎていく。
エラー、そして冷却完了まで、か。
「あれ、おっかしいなぁ。さっきはこんな風にならなかったのに。オーダー・ストロングファースト!」
『Error、冷却完了まで後59秒』
ライトニングだけじゃなく、他の魔法も使えないか。セオリー通りであり想定通り、しかし今だけは外れて欲しかったという気持ちもある。
「その辺にしておけ如月。もう
「なにそれ? どういうこと?」
発砲後の銃口を覗き込む未開人のように、ジロジロと星の杖を眺めたり先端をじっと見つめている如月を言葉で制止する。
星の杖が告げているメッセージから察するに、もうじき次の魔法は撃てるようになる。万が一覗き込んでるときにライトニングが出たら死んでしまう。
「ざっくり言えば、お前の星の杖は一度使うとしばらくは使えないってことだ。で、もうすぐそのしばらくが終わる。わかってると思うけど、指示があるまで魔法は使うなよ」
「ふーん……」
ストロングファーストやフライを使った後の再使用はまだ試してないため、厳密には使用回数ではない可能性はあるが、今重要なのはライトニングを連発出来るかであるためそこは置いておく。
「ガジェット型の弱点は克服出来てなかったみたいね」
「これほどの科学異能ならもしかしたらと思ったけど、流石にそう都合よくはいかないな」
桜ノ宮が僅かに表情を険しくして呟いた。考えていたことは俺と同じだったのだろう。
如月の持つ星の杖のような装置は、科学異能の中でもガジェット型と分類される。このガジェット型の異能は往々にして排熱の問題を抱えており連発出来ないことが多い。絶対というわけではないためもしかしたらという淡い期待をしていたが、結果は見ての通りだ。
星の杖の強化項目にあった連続詠唱+1というのは、この冷却時間に関するものだったのだろう。恐らくライトニングを一発撃った後、もう一発までは冷却時間なしで撃てるのだ。
……今だけの協力者に有限のスキルポイントを使うわけにはいかない。さっきまではたしかにそう考えていたが、あの時点ではもう何度か道中で戦闘をするつもりでいた。想定よりも召喚獣と自分のレベルアップが進んでいない今、最終戦に向けて本当に異能の強化は選択肢から外して良いのか?
「誰か、さっき如月が異能を使ってから大体どれくらい時間が経ったかわかる奴はいるか?」
「きっかり10分よ。この通り」
判断材料の一つとしてざっくりとした冷却時間を求めると、桜ノ宮がストップウォッチを起動した状態のスマホ画面を見せて答えた。
「流石桜ノ宮、抜け目ないな」
しかし10分、……10分か。ゲームならそれほど長いとは感じないかもしれないが、実際の戦いの中での10分は長すぎる。一撃で決められなかった場合、その戦いではもう如月の異能はあてに出来ないと思っておいた方が良い。
不意の遭遇戦ならそれほど問題にはならない。まずは一発如月がぶちかまし、残党をゼリービーンソルジャーズや沖嶋たちに任せればいい。
だが指揮官を一撃で沈められるか、それが無理だった場合次までの時間を稼げるか……。バフが完全でなかったとはいえ、ワーウルフ程度に軽くひねられるようではゼリービーンソルジャーズは足止めに使えない。小堀は防御に専念させるから、頼みの綱は沖嶋と加賀美ということになる。
「カミサマ、さっきのバリアはどれくらいの時間維持できる?」
【限界まで使ったことなどない。だがそうだな、さきほどと同程度の負荷であれば10分くらいは余裕でもつだろう】
戦いに身を置くような生き方をしてなければバリアを長時間展開し続けることなんてないだろうし、限界を知らないというのはそれほど不思議じゃない。小堀なんて明らかに戦い慣れしてないしな。
ただまあカミサマは馬鹿じゃない。きちんと文脈を理解して、必要なことは答えてくれた。
「カミサマの力に何か制約はあるか? 如月みたいに連発出来ないとか。あと、治癒の力は具体的にどこまで治せる? 四肢の欠損は? かかる時間は?」
【制約などないが、当然無限の力などありはしない。擦り傷程度ならすぐにでも治せるが他は知らん。菫に大きな怪我などさせたことはないからな】
小堀に聞いたつもりだったが、まあ良いか。
異能によってはエネルギー切れが存在しないものもあるが、付喪神が息切れするタイプの異能であることは知ってる。だから先にバリアの持続時間を聞いたんだしな。とりあえずそれ以外の制約はないってことで良さそうだ。
治癒は言われてみればそれもそうかという感じだ。普段から戦ってるわけでもない上にバリア持ちのホルダーだと考えれば、怪我をする機会など早々ないだろう。
どこまで治せるかわからない以上この場で試すわけにもいかないし、治癒は最後の手段と考えておくべきだな。それが必要な状況にならないように立ち回る。
「フレームはたしかガス欠はなかったよな?」
「そうだね。ただダメージを受けすぎると壊れるから、無限の力じゃないっていうのはこっちも同じかな」
あとは単純に装着者のスタミナが続く限りだったか。
沖嶋は運動もできるし普段からバチバチに異能で戦ってるはずだし、その辺の心配は必要ないだろう。
「鎖は最大で何本まで操れる? 長さの限界は? さっきのワーウルフと鎖なしでやり合ったら勝てるか?」
「鎖は4本。長さは限界まで試したことないけど、今まで最大で20mくらいまでは伸ばしたことあるって感じ。さっきのは、……どうだろう。対応できないってほど速くはなかったけど殴り合いでどっちが優勢かまではわからないかな」
「十分だ」
確実に勝てると断言できるほどの実力差はないということはわかった。それでも全く対応できてなかったゼリービーンソルジャーズよりはマシだが、突っ込ませるのはやめておいた方が良さそうだ。
長さに天井がないなら実質的には4本以上の働きが期待できるし、鎖の能力をメインに考えるべきだな。
「加賀美はどうだ? さっきのワーウルフとタイマンなら勝てるか?」
「タイマンでも集団でも負ける気がしないぜ。銀のマスカレイドはさっきのマンティスより強いからな」
いつの間にか強化フォームではなく最初に変身した白いスーツに戻っていた加賀美が、軽く胸を叩きながら自信満々にそう答える。沖嶋の鎖で拘束していたとはいえ、一撃で殺せる殺傷能力があるのは事実。それを上回るというのなら、その銀のマスカレイドとやらも期待できる。頼もしい限りだ。ただ、
「その銀のマスカレイドはどれくらいの間変身していられるんだ?」
「すげえ、なんで時間制限があるってわかったんだ?」
何の制約もない強化フォームだというのなら最初からその銀のマスカレイドに変身すれば良いし、今もわざわざ白に戻る必要はないからな。
「予想だよ。それで?」
「銀は5分、それ以外は10分、白ならへばるまでいつでも行けるぜ!」
最も強い形態で5分、さっきのマンティスなら10分か。相手の強さ次第だが、如月のクールダウンに必要な時間を一回稼ぐことくらいは出来そうか? 後は基本形態についてだが
「へばるまでね」
加賀美の異能は一見して外付けの外骨格のように見えるが、そういうタイプはホルダーの体力ではなく外部装置の燃料が継戦能力に影響することが多い。
それに、さっきのマンティスとかいうフォームは最近咲良町を賑わせている怪人に似ている部分があった。連中がどのタイプなのかまでは知らないが、悪の組織は結構その辺偏ってるっぽいんだよな。
「違ったら悪いけど、加賀美の異能って外付けじゃなくて改造手術か?」
「!? マジで何でわかるんだ?」
「今のは勘だ。ただ、だとしたらへばるってのはそう遠くないんじゃないか?」
改造手術を受けてるタイプの科学異能は、発動に大きなエネルギーを必要とする。日常生活程度であれば頻繁な補給はいらないが、変身して戦うとなるとあまり長時間はもたないことが多い。
「さっきも言ったけど俺のホワイトは一番最初のマスカレイドでさ、実験とかに長く使えるようにってんで出力とかより燃費と耐久重視で改造されてたらしいんだ。だから最悪、丸一日でもこのまま戦えるぜ」
そう言えば加賀美は最初のマスカレイドで、その実験結果から様々なマスカレイドが生まれたというような話だったな。
「なるほどな。だったら頼りにしてるぞ」
「おう! 任せとけって!」
加賀美のその言葉からは躊躇も恐怖も全く感じない、本気でそう言っているのだということが何となくわかった。本当に死んでもおかしくない戦いだというのに、その前衛を任されてこの胆力とは……。クラスメイトとしての印象はただの馬鹿だと思っていたが、どうやらそれは少し間違った認識だったらしい。
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