第40話 今日は運がいいな
俺はゼタと共にダンジョン『深淵穿孔』に来ていた。
依頼した〈ミスリルの剣〉を作るため、〈ミスリル鉱〉を入手するためだ。
ゲーム時代でもゼタは仲間にできるNPCの一人だった。
ただし、迷宮都市内という限られた範囲でしか行動を共にできないが。
「アタシのレベルは65だ。だいたい一人で二十階層くらいまで潜っている。そのあたりがちょうど、〈ミスリル鉱〉を手に入れやすい場所だ」
彼女は普段からこのダンジョンに潜って、自力で武具の素材を入手しているという。
そんなことが可能なのも、【戦場鍛冶師】という天職のお陰だろう。
「二十階層か。俺はこの街に来たばかりで、まだ一度しかここのダンジョンに潜ってないのだが、十五階層で引き返すことになった。モンスタール―ムへの落とし穴トラップに落ちたせいもあるが」
正確には自分から飛び込んだのだが。
「おいおい、初挑戦で穴トラップからのモンスタール―ムだと? そいつはめちゃくちゃ運が悪いな。なにせ何度も潜ってるアタシですらまだ一度もねぇんだぞ? ってか、よく生きて戻れたな……?」
そんなことを話しながらずんずん下層へと降りていく。
ところで俺は今、〈鋼の剣〉ではなく、〈黒鋼の剣〉を装備していた。
この世界では〈鋼の剣〉と並ぶ量産型の武器だが、〈鋼の剣〉よりも一段階性能が高く、「二十階層にいくならせめてこれくらい装備しろ!」とゼタに貸してもらったのである。
―――――――――
〈黒鋼の剣〉黒鋼で作られた片手剣。〈鋼の剣〉より切れ味がよく、耐久値も高い。攻撃+40
―――――――――
「〈フリージング〉」
「〈ブレイクインパクト〉!」
「「「~~~~ッ!?」」」
道中で現れた魔物を蹴散らしながら進んでいく。
複数の敵が現れたときは、青魔法での『凍結』とゼタの範囲攻撃が非常に有効だ。
そうして先日モンスタールームに遭遇した十五階層をあっさり通過。
当然、魔物のレベルもかなり上がってきたが、普段からソロで潜っているというゼタがいることもあって、危なげなく二十階層まで到達することができた。
「よし、この階層なら〈ミスリル鉱〉が手に入るはずだ」
「グレートマインクラブだな」
「ほう、よく知っているな?」
グレートマインクラブは、カニ系の魔物であるマインクラブの上位種だ。
甲羅の上に大きな岩を乗っけているのだが、それが
その岩の中に稀にミスリルが含まれているらしく、倒せば確率で〈ミスリル鉱〉がドロップするのである。
ちなみにグレートマインクラブのレベルは60だったはずだ。
「……噂をすれば早速現れやがったぜ。遭遇率はそれほど高くねぇはずだが、今日は運がいいな」
ガンガンガン、という音を響かせながら、通路の向こうから巨大な魔物が姿を現した。
大きさは二階建ての一軒家くらいあるだろうか。
それほど広くないこの通路を完全に塞いでしまうほどで、先ほどの音はどうやら周囲の壁に、長い足や甲羅の上の岩を何度もぶつけるときの音だったようだ。
「ブオオオオオオオオオオオッ!!」
こちらの存在に気付いたのか、そんな独特の雄叫びを響かせると、長い足を頻りに蠢かせながら意外にも機敏な速度でこちらに襲い掛かってきた。
右側の巨大な鋏を振り上げると、ゼタ目がけて勢いよく振り下ろす。
「おらあっ!!」
があああんっ!
だがゼタは下段から振り上げた巨大ハンマーで、それを弾き上げてしまった。
そうして隙ができた瞬間を見逃さず、ゼタは距離を詰めて、
「〈メタルクラッシュ〉ッ!!」
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
巨大ハンマーがグレートマインクラブの頭部に叩きつけられた瞬間、爆音が轟いた。
〈メタルクラッシュ〉は【戦場鍛冶師】の攻撃スキルで、一部の魔物に対して、その防御値を無視したダメージを与えることができる。
確かグレートマインクラブにも有効だったはずだ。
「~~~~」
しかも今の一撃でスタン状態になっている。
ゼタはさらにハンマーを振り回して攻撃を見舞っていく。
無論、俺もぼーっと突っ立っているだけではない。
〈ファイアアロー〉を放って援護する。カニ系統の魔物の多くは赤魔法が弱点なのだ。
やがて巨大ガニが絶命し、光の粒子となって消滅する。
後には淡く発光する銀色の塊が残った。
「おお、落ちたぜ! 〈ミスリル鉱〉だ!」
ゼタが嬉しそうに叫ぶ。
グレートマインクラブから〈ミスリル鉱〉のドロップ率はちょうど50%。
決して低くない確率だが、一体目から当たりを引いたのは幸先がいい。
ちなみに残る50%の確率で、〈超高級蟹身〉がドロップする。
食べるとめちゃくちゃ美味い最高級食材だが、さすがに〈ミスリル鉱〉と比べると外れドロップだろう。
「この調子でガンガン狩っていくぜ!」
それから俺たちはグレートマインクラブを探し、二十階層から二十二階層くらいまでを歩き回ったのだった。
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