第23話 死ぬのはお前だけで済んだものを

 このイベントの主犯はアルベール卿だった。

 つまりゲーム時代でも、俺は彼と遭遇したことがあったわけだ。


 だが一つのイベントにしか登場しないキャラだったため、正直まったくピンときていなかった。

 ようやく気が付いたのが、助っ人として登場したときである。


 ……にしても、なんでまたそんな人物のもとに生まれたのか。

 親ガチャが酷すぎるだろう。


「まさか、この〈迷宮暴走〉を人為的に引き起こしたというのですか……っ!?」


 アルベール卿の白状に、セレスティアが愕然としている。


 ダンジョンの暴走を、意図的に引き起こす方法。

 それはダンジョンの壁や床などを破壊し続けることだ。


 ゲーム時代のグラワルでもNPCの会話などから、プレイヤーもこうした情報を得ることが可能だったのだが、残念ながら実際にプレイヤーがそれを行うことはできなかった。

 ダンジョンの壁を壊せないように設定されていたためである。


『絶対に壁を壊したりするんじゃないぞ? とんでもないことになるからな』


 などとNPCから脅されていたが、システム上それを律儀に守るしかなかったのだ。


「なんてことを……っ! 下手をすれば、街に多大な被害が出ていたのかもしれないのですよ!?」


 激怒するセレスティア。


「貴様を殺すためには犠牲など仕方あるまい」

「一体なぜですかっ!? 王国を護る〝剣〟であるはずのあなたがっ……」

「ふん、今から死ぬ者にそれを説明する必要などないだろう」


 アルベール卿が剣を構えると、配下の剣士たちも一斉に臨戦態勢に。


「この叛逆者がっ!」

「殿下をお守りするのだ! 指一本、触れさせるな!」


 激怒しながら迎え撃とうとする騎士たち。


「我々も殿下に加勢するぞ!」

「「「お、おうっ!!」」」


 バークの判断に、他の冒険者たちが戸惑いながらも頷く。

 だがこの状況に誰よりも困惑していたのは、恐らく俺だろう。


 おいおい、マジかよ。

 ゲームじゃこんな展開、なかったぞ……?


 ゲームではアルベール卿が主犯だと彼女が看破した時点で、大人しく拘束される流れだったはずだ。

 それが今、懲りずに戦おうとしている。


 正直かなりマズい状況である。


 数の上では、倍いるこちらが有利。

 しかし問題は互いの疲労度の違いだ。


 ボスはほとんど攻撃してくることがなく、攻撃のメインは子蜘蛛だった。

 つまり、ボスを相手取っているアルベール隊はほとんどダメージを受けていないのに対し、逆に子蜘蛛の相手をしていた騎士隊と冒険者隊はダメージを負っているということ。


 だからあえて攻撃の手を緩めていたのか……。


 加えて【剣帝】という、強力な天職を持つアルベール卿の存在だ。


「先ほど大人しくボスにやられていれば、死ぬのはお前だけで済んだものを」

「っ……」


 その凄まじい威圧感に、【戦乙女】のセレスティアが思わず後退る。


 確かに【戦乙女】も【剣帝】に匹敵する強さの天職である。

 だが両者には年齢差、経験の差があった。


 俺の予想では、レベル差は10以上。

 アルベール卿とその配下たちが本気を出せば、俺たちを全滅させることも不可能ではない。


 そして実際にそのつもりらしい。

 ここでセレスティアのみならず全員を皆殺しにした上で、帰還後にダンジョンでやられたと報告する気だろう。


 よく考えたらゲームのときの展開がおかしいのだ。

 セレスティアを暗殺するためにここまで大掛かりな仕掛けをしておいて、最後は簡単に引き下がるなんて変な話である。


 まともにやり合ったら間違いなくやられる。

 ならば――


「〈気配隠蔽〉」


 俺はスキルを使い、姿を眩ます。

 アルベール卿の配下の一人が、すぐにそれに気づいた。


「ご当主様っ、一人姿が……っ!」

「なにっ? ……ライズかっ!」


 すでに一度俺の〈気配隠蔽〉を見ていたアルベール卿は、即座に状況を理解し、叫ぶ。


「出入口を塞げ! ここから絶対に逃がすな!」


 もし一人でもこの場から逃げ、真実を証言されたらアルベールはお終いだ。

 配下たちが命令に従い、慌てて壁を作ろうとする。


 だがこのとき、セレスティアだけは〈気配隠蔽〉状態にある俺の真の意図を理解していた。


「はああああっ!」


 地面を蹴り、アルベール卿へと躍りかかる。


「はっ、愚かな! それで私の隙を突いたつもりかっ!」


 すぐさま応じようと、アルベール卿が剣を構えたときだった。

 その俺は、全力の一撃を叩き込んだ。


「があああっ!?」

「俺がこの場から逃げて、地上に報告に行くと思ったか? まんまと騙されたな」

「っ……き、貴様ぁっ!?」


 無論、ステータスの低い俺の攻撃では、背後からの不意打ちでも大したダメージにはならない。

 だがそこへセレスティアが突っ込んでくる。


「〈ソードダンス〉っ!」

「ぐぅ……っ!」


 一瞬スタン状態になっていたはずだが、さすがは【剣帝】、すんでのとこでセレスティアの斬撃を受け止めた。


〈ソードダンス〉の連撃をそのままで防ぎ切ったアルベール卿だが、当然セレスティアの猛攻はそこで終わらない。

 続けざまに〈ヴァルキリーラッシュ〉へ。


 先ほど俺が教えたコンボを、もうモノにしてしまったようだ。


「……ば、馬鹿なっ……この私がっ……こんな小娘にっ……」


 コンボが続くたびに威力を増していくセレスティアの攻撃を、次第に防ぎきれなくなっていくアルベール卿。

 やがて二度目の〈ヴァルキリーラッシュ〉の最後の一撃で、ついにアルベール卿の剣がその手から弾き飛んだ。


「〈ソウルブレイク〉っ!」

「がああああああああっ!?」

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