第42話 生徒会奥義イージスの盾

「イージスの盾だと?」


「そう。我々生徒会は、その権力を利用して相手のする行為を禁止することができるのよ。相手の行動をすべて禁止し、相手を丸裸にする。相手が抵抗することのできない存在になれば、私達は最小限の戦力で最大の効果を得ることができる。これこそが生徒会に伝わる奥義、イージスの盾!」


「さすが、会長。完璧です。よっ、大統領!」


 副会長は拍手をして会長を盛り立てる。


「イージスの盾……攻めの威圧感はないが、まさに無敵の盾。……手強(てごわ)い」

「あたし達のクラブ技が禁止されたんじゃ、ホントに打つ手がないわよ」


 さすがの盟子の声も弱々しげだ。


「部長~、どうするんですか~?」

「こうなったらクラブ技を使うのをやめて、拳でなぐるっていうのはどうです? みんなでフクロにすれば、きっと勝てますよ」


 ニコニコ笑いながらそんな怖いことを言う品緒に、一瞬空気が凍る。


「品緒さ~ん、軽蔑しま~す!」

「お前、女の子が相手なのによくそういう発言が平気でできるな」

「僕は男女同権をこころがけていますから」


「そういう問題か?」

「そういう問題ですよ」


 顔色一つ変えず言い切る品緒に一同沈黙。


「生徒会奥義、イージスの盾。学園内での暴力禁止!」

「…………」


 品緒の意見、簡単に無効化。


「お前の非道な作戦は失敗に終わったな」

「結局、あなたの卑劣な本性を世間に知らしめただけだったわね」


 ボロクソに言われる品緒。だが、さすがの品緒もここまで言われては反撃に出る。


「盟子さん。あなただって、『お前を殺す』とか言った時は、普通に殴るつもりだったんでしょうに」

「あたしはいいのよ。女同士だから」


「彼方君だって、惑星で殴るつりだったんでしょ。手も惑星も一緒じゃないですか」

「へぇー、手も惑星も一緒なんだ」


 彼方は両手を挙げていかにもわざとらしく驚いて見せた。


「じゃあ、あなたは惑星で箸を持ったり、握手したりするんだ」


「いや、別にそういうことを言ってるわけじゃ……」

「しかも、宇宙では太陽の周りを手が回っているんだ。へぇー、そりゃあさすがの俺も知らなかった。自ら光を放ってないうえ、反射率も悪いからいまだ観測されてないけど、そのうちハッブル望遠鏡あたりで発見されるんだろうな。そうなったら世界中の人が驚くぞ」


 寄ってたかってである。


「……わたしくがわるぅございました」


 泣く泣く頭を下げる品緒。


「あなた達、一体ここに何しに来たのよ」

「バカなコントじゃないんですか」


 麗奈と副会長のコメントも当然である。


「うるさい。いきなり訳のわからん技を使われてこっちの必殺技を封じられたんだぞ。品緒でもいじめて憂さ晴らししないと元気も出んだろうが!」

「彼方君、僕の存在って一体……」


 品緒が泣きそう顔で彼方の腕にすりよってきたが、彼方は血を吸いにきた蚊相手でもそこまでは邪険にせんだろうと思うくらいの強さでそれを振り払う。


「もういい加減あなた達の相手は飽きたわ」


 溜息混じり言葉を吐いて、麗奈は指を弾いてパチンと鳴らす。


 ドカドカドカ


 運動会の団体競技のような地響きにも似た音を立てながら、生徒会室と扉一枚を隔てて隣接している生徒会準備室から、よくそんな狭いところに今まで入っていたなぁと感心してしまう人数が、出てきたというか、溢れてきたというか、押し寄せてきた。その数、総勢二十人はくだらない。そして、全員が全員揃いも揃って迷彩服。こんな学校の中じゃその方がかえって目立つにもかかわらず何故か迷彩服。さらに、肩からライフルを提げたりもしている。

 この学園の生徒会室は、代々生徒会が大きな権力を持っていたのが影響して、かなり広い。普通の教室の2倍はある。そのため、さっきまではその中に六人しかおらず閑散としていたが、今や彼らの出現に手狭に感じさえする。


「な、何なんだよ、こいつらは?」


 いきなり自分達と麗奈達との間に割って入ってきたその異様な集団に、さすがの彼方も気圧される。


「生徒会付属特殊工作部よ」

「何なんだよ、それ! もう訳わからんぞ!」


「訳なんてどうでもいいのよ。そんなことより、みんな構えなさい!」


 麗奈の指示に従い特殊工作部の面々が揃ってジャキッとライフルを構える。


「お、おい! マジか?」

「問答無用。撃てっ!」


 パパパパパパパパパパパパパン


 乾いた破裂音が連なる。

 彼方達は思わず腕で顔を覆いつつ、すぐに来るであろう痛みを覚悟した。


 ──が、いつまでたっても痛みはやってこない。


 恐る恐る指の間から前を見ると、目の前に壁が立ちふさがり、それが銃弾から彼方達を守ってくれていた。


「お、お前達は……」


 その壁に彼方は見覚えがあった。それは金と銀に輝く鎧を身にまとった二人の鎧武者。


「波佐見が呼び出してた将棋の駒じゃない!」


『いかにも』

『波佐見様の伝言をお伝えします。──私自身はもはや戦いに参加できないが、最後のクラブパワーを使ってこの二人を向かわせる。体は皆と共にあらずとも、心は共に戦っている──以上』


「波佐見の奴……」


 感動したのもつかの間。


「生徒会奥義、イージスの盾。学園内での鎧の着用禁止」


 金と銀の鎧が消え去った。


『うわっ!?』

『いちちちちちちちち!』


 それまで銃弾を防いでくれていた鎧が消え去ったため、弾を直に食らうことになり、二人の武将達は飛び上がって逃げ出す。


「お前ら急にどくなよ! つっ! マジで痛っ!」


 武将達が弾を避けるべく逃げ出したせいで、もろに食らうことになってしまった彼方達。そうなっては彼らも弾から逃げ回るしかなかった。その混乱の中、彼方が手近な長机を横に倒しバリケードにして弾から身を守る。ほかの者達も、慌ててそのバリケードの中に飛び込んだ。

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