第7話 お姫様を助けました


俺は大木を登り始めた。


ちなみに手や足を使って登る訳では無い。


「ウィンド」


風魔法を使いその場に風邪を作り出してそれに乗って上がっていく。


俺の体はエレベーターに乗ったように真っ直ぐ上へ上がっていく。


気分はまさに「上へまいりまーす」ってやつ。


そうやって大木をあがっていると木の幹で生活をしているモンスターなんかが見れたりした。


「ギギっ?!」

「ギゲッ?!」


俺と目が会い驚いていたのはゴブリンだった。


この世界樹だが、木の枝もすごい太さである。


直径5メートルくらいは余裕であるんじゃなかろうか?


それくらい太いので、この枝の上で生活している奴もいるくらいだ。


さらに上にのぼると木の枝に穴を開けてそこで暮らしているやつなんかも見受けられる。


「前回来た時と同じだな」


そんなことを思いながら俺は上へと上がって行った。


すると、いくつか登ったところだった。


「ん?」


木の幹に気になるものがあった。


俺は風から降りて木の枝に着地。


それから木の幹の"それ"に手をやった。


「爪痕?」


木の幹にはくっきりと刻まれた爪痕があった。


五本線が平行に刻まれていた。

傷の太さは10センチほどはあるか?

深さもかなり深い。


「ふむ……やばそうなものを見つけてしまったな。」


明らかに小型サイズのモンスターの爪痕ではない。


そして、それは上へと続いている。


「この上に行けば、この傷跡を付けた奴に会えるか?」


俺は人々の前では無能を演じているが、モンスターの前ではそうではない。


「倒してみたいな」


俺は静かに武者震いしつつ。


「ウィンド」


さらに上へと昇っていくことにした。


そして、頂上に着いた。


「ありゃま。予想外だったな」


ここまで昇ってくると爪痕の主に会えると思ったのだが、予想が外れてしまったようだ。


爪痕の主のようなモンスターは見つからない。


10センチの爪痕を残せるのだ。


体もかなりデカいだろう。


そんな奴が身を隠せるわけも無いんだが、頂上にはモンスターがいない。


「ここにはいないのか、残念だな。ま、いっか」


俺はそう呟きながら当初の目的を果たすことにした。


世界樹の種である。


これは普通に木の枝に成っている。


俺はとりあえず種を探していくことにした。


もちろん、種も世界樹に比例してかなりデカいものとなっている。


俺は久々に使う魔法をとりあえず使ってみることにした。


「【収納】」


呟くと目の前にコォォォォォォォっと、黒い穴が開いた。


空間魔法【収納】によって出来た穴だ。


ここに入ったものは収納空間に収められる。

ものを運ぶ時に重宝するのだ。


「さて」


歩いていく。


やがて、見えてきた。


「デカイな、世界樹の種は」


俺が立っている木の枝にぶら下がるようにして世界樹の種が出来ている。


1メートルくらいの丸い実だ。


俺は【収納】を種の下に使った。


パックリと開く黒い穴。


「ウィンドカッター」


枝から実を切り離すと自然落下して種は収納空間の中に入っていく。


これでよし、と。


あとは


「どんどん取っていこう」



「ふぅ、100個くらい取れたな。これで数年間は持つことだろう」


俺は種をいっぱい取って満足していた。


それから枝から降りようとしたのだが、


「ん?あの枝……」


視界の中の一本の枝の様子がおかしいことに気付いた。


「なんだ、あれ?自然に折れたにしては変だぞ?」


俺はそのおかしな木の枝に近付いてみた。


すると、その枝はなにかに折られたような形跡をしている。


例えるならそうだな。

木の枝を拾って両手で両端を握り、力を入れて折った時のような折れ方だった。


そして、それを証明するかのように残っている木の枝には例の爪痕が残されていた。


「ふむ……ここから例のモンスターが降りた?世界樹は生命力がすごい。こんな傷跡もすぐに直すだろう。しかし直っていないということは、このキズは出来て時間が経過していない、ということか」


例のモンスターは先程まではここにいて、俺が来るのが遅かった、というよりタイミングが遅かったせいで、会えなかった、ということだろう。


しかし


「ここから降りれば会えるかもな。あのデカい爪痕のモンスターに」


俺は力を隠しているが、力を使うことが嫌いな訳では無い。


むしろ、好きである。


「よし、このモンスターを少しだけ捜索してみよう」


俺はそう言って木の枝から飛び降りた。


世界樹はかなり高く、俺はかなりの高所から飛び降りた。

そのせいで全身に風圧を感じながら落下していたのだが、そのとき。


「だ、誰かぁぁあぁぁ!!!!!」


女の子の悲鳴が聞こえてきた。


「ん?」


方角は地上からだった。


「誰かがなにかに襲われているのか?」


正直人助けというのは面倒ではあるが、目の前で困っている人間を見殺しにするほど薄情な人間でもないつもりだ。


なので、落ちる軌道を変えて俺はそのまま悲鳴の聞こえた方向へ向かっていった。


落下しながら下を見ていると何が起きているのかが分かるようになってきた。


「ウガァァアァアァァアァア!!!!!」


(赤い体にツノ……オーガか?)


巨大なオーガが体を大きく揺らしながら兎のような生物を追いかけているようだった。


「まぁ、なんだっていいか」


俺はそのままオーガの方に向かっていって、空中で前に一回転してから


かかと落としグランブレイク


オーガの頭にかかと落としを行う。


ピシ。

ビシシシシシシシ。


オーガの頭蓋骨にヒビが入るような音。


「ウガァァアァアァァアァア!!!!!」


それからオーガの絶叫が響いた。


そして、グラッ。


オーガの体が前後にフラフラと揺れた。


そして。


バタリ。


オーガは背中から後ろへと倒れていった。


「おいおい、もう終わりかよ。呆気ないなー」


せっかく来たんだしもう少し楽しませて欲しかったんだが。

オーガは完全に伸びてしまっている。


そして、俺はそれからオーガの爪を見た。


横幅は10センチほどの巨大で鋭利な爪。


(爪痕の主はこいつで問題なさそうだな)


爪痕の主は弱かったので少し物足りないが、俺は背後を振り返った。


そこには、見知った女の子がいて。


「た、助かりました!やはりこれは運命なのではっ?!」


目をキラッキラにさせた例のお姫様が一人いるだけだった。


落ちてくる時うさぎのように見えたのは彼女の体が小さくて全身が白い衣装に覆われていからだった。


それから女の子は言ってきた。


「やっぱりグラン様がナンバーワンですっ!」



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