第40話

頭が弱いと思ったが、さすがにただの馬鹿ではないようだ。大翔はポケットから学生証を取り出した。男がスマホを構える。

「松本、ダイショー君?この学校って私立の名門のとこじゃなかったっけ?」

「俺は松本家の、愛人の子だ」

リーダー格の男の手が止まった。

「調べてくれて構わない。誰かしら知ってるはずだ。この学園に『松本大翔』は俺しかいない」

別の男がどこかに連絡し、リーダー格の男に伝える。リーダー格の男は写真もとらず、学生証を大翔に突き返した。

「ふざけんなよ、てめぇ…最初に言えよ。松本家のご子息なんざ、こっちに分が悪すぎんだよ」

リーダー格の男は大翔を睨みつけた。真偽の程は知らないが、松本家はこの地域の警察に対しても大きな権限を持っているらしい。この男が大翔の学生証の写真を持っていたとしても、脅されただのとでっちあげればいい。警察が動けば困るのはこのリーダー格の男。ひいてはこの男の所属する組織だろう。今後、仕事をしづらくなるはずだ。

「データは渡す。確実にあいつを、視界から消してくれ」

大翔はスマホを差し出した。リーダー格の男は舌打ちをしてデータを確認する。別の男とも見合ってから頷いた。

「間違いねぇ。データは消しとけよ、お坊ちゃん。俺もお前も、ここで会わなかった。そうしとくのがお互いのためだ。わかったら今日のことは忘れろ。お前もだ、妹待ってんだろ?さっさと帰れ。行くぞ」

リーダー格の男は仲間たちに声をかけた。黙って成り行きを見ていた少女の兄が再び地面に額を擦り付けた。

「ま、待ってくださいよ!ソイツに、一発くれてやらねぇと気がすまねぇ!会わせて下さい、コンビニ野郎と。頼んます!」

「俺も、最期まで見届けたい。見させて欲しい。データを提供したんだ。こちらの言い分も飲んでもらう」

最期を見れなければ、佳奈多を安心させてあげることができない。もう二度と佳奈多の前にあの男は現れないという、確約が欲しい。

リーダー格の男はため息を付いた。

「…しゃーねーな。車乗って、先いってろ。麓で合流だ」

リーダー格の男の指示に、周りの男が動き出した。大翔と少女の兄は、公園の周辺に止めてあった車に乗せられた。車は行き先も告げずに出発した。



窓はカーテンで仕切られていて、周りの景色は見えない。しばらく走って、車は止まった。降りた先は山の麓の駐車場だった。こじんまりとした駐車場は、他に車は停まっていない。またしばらくして、車がやってきた。車からは先程の金髪の、リーダー格の男が降りてきた。

「坊っちゃん、えげつねぇなぁ。お前だろ?あのオッサンやったの。まだ伸びてたぞ」

そのまま連れてきた、と、後部座席からオジサンがひきずりおろされた。駐車場にごろんと寝かされている。男の一人がホースを持っていた。駐車場の水道に繋げられたそれから直接水をかけて起こすつもりらしい。ホースの水の出口を狭めて、勢いよく噴出される水をオジサンの顔にぶちまけていた。オジサンは飛び起きた。

「んひゃあああっ!な、なんっ、ここは、なんだ!?」

オジサンは突然のことにパニックになっているようだ。一人、騒いでいる。リーダー格の男がスマホをオジサンに突きつける。

「この動画。やってんの、アンタで間違いないね?」

警察官のような口ぶりに、オジサンはうぐっと黙った。その反応に、リーダー格の男は満足気に頷く。

「ちょっとね、おっさんを懲らしめるように依頼されてんだわ。ほんで、そこのふたりも別の被害者の知り合いらしいのよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る