第36話

明け方、オジサンは私服に着替えて店から出てきた。スマホを見ながら歩いている。自転車や車じゃなくて良かった。大翔は一定の距離を開けてオジサンの後を追った。

しばらく歩いてついたのはアパートだった。オジサンは一階の一室の前で鍵を取り出す。鍵を開けて扉を開けた瞬間、大翔はオジサンと共に入室した。驚くオジサンが声を上げる前に背後から喉を締めて、握っていたスマホを奪う。

画面には涙を流す佳奈多が映し出されていた。後ろをついて歩いていた時、男の足取りは軽く楽しそうだった。歩きながら、佳奈多の動画を楽しんでいたらしい。問い質すまでもなかった。佳奈多を苦しめているのはこの男だ。

大翔はオジサンの向きを変えて鳩尾に拳を叩き込んだ。全力で、体重も乗せて拳をめり込ませる。オジサンはぐぼっと喉から鈍い音を立てて崩れ落ちた。佳奈多の動画を大翔のスマホに移す。佳奈多の電話番号も消去した。警察が調べればデータの復旧も大翔のスマホへ移したことの証明も造作無いだろう。警察が介入しないよう、注意を払わなければならない。警察相手でも、佳奈多のこの動画は第三者に見せたくはない。

佳奈多の話を聞く限り、この男には佳奈多の名前と電話番号以外個人情報は渡っていない。スマホから佳奈多に関するデータを消去しておけば、この男が佳奈多にたどり着くことはもうないだろう。

失神している男を見ると、うっすら胸が動いていた。生きてはいるらしい。動かない今のうちに室内を物色する。狭い室内には小さなテーブルと敷きっぱなしなのだろう布団とパソコンがあった。

パソコンを起動して見るとパスワードを求められることもなく操作ができた。デスクトップにいくつか並ぶアイコンの中に『秘密のお楽しみ』というタイトルのフォルダがあった。

クソのようなタイトルのそれの中には予想通り、数名の少女や少年の動画と学生証の画像が保存されていた。

大翔はパソコン本体に挿しっぱなしのケーブルに自分のスマホを繋ぎ、データを全てコピーした。佳奈多と同じ構図の動画の他に、オジサン一人だったりオジサンの他に男がいて二人だったりで行為をしている、いわゆるハメ撮り動画が数点あった。サムネイルと佳奈多の話を照合する限り、少年相手だと別の男と共に行為を行なっているようだ。オジサンには男同士での行為の知識がないのだろう。

数件の学生証を確認するとあのコンビニ周辺の学校の少女がいた。その学生証の画像には『非処女・取扱注意』というタイトルがついていた。ここから歩いていける。この少女はなにか、鍵になる気がする。

オジサンはまだ気を失っている。盗られたものが佳奈多の動画と電話番号のみなので警察に連絡することはできないだろう。探られて痛い腹があるのはこのオジサンだ。

今日の放課後、少女の学校に行ってみようと、大翔はオジサンの家をあとにした。

その日は一度自宅に戻り、身支度を整えて佳奈多を迎えに行った。たぶん眠れなかったのだろう。佳奈多は目の下を真っ黒にして、終始暗い表情を浮かべていた。早急に解決してあげなければならない。やはり殺しておけば良かったかと思ったが、それは最終手段だ。今はまずオジサンをより追い詰める材料がほしい。

放課後に佳奈多と別れた大翔は着替えてから学生証の学校を訪れた。当然この学校も放課後のようで、部活を行う生徒しかいない。学校の場所は確認できた。ぐるりと学校を歩いて周囲を確認する。

明日は早退してここに来る。その場合、佳奈多をどうするべきか。佳奈多も一緒に早退してもらい、佳奈多を自宅に送り届けてからここに来る。それとも佳奈多には仮病を使って学校を休んでもらうべきか。

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