前世で倒したはずの魔王とその娘達が、今世である日突然家族になった。好感度振り切ってるの、おかしくない?

風遊ひばり

転生、そして元の世界へ

まえがき


一応、もう一つ書いているラブコメがあるんですよ……先発のはコメディ要素が多いですが、こちらはもっとじっとりしてるかも……


ラブコメ練習中です。


————————————————————


 俺はその時、薄暗い建物の中に倒れていた。


 視界が霞み、身体はピクリとも動かない。

 流れ出ていく血は、そのまま零れていく俺の命を示していた。



「これで……終われるのか……?」



 独り言のようにぼそりと呟く。

 それはまるで、死ぬことを求めているようだった。



「そう……ね……」


「お前……まだ生きて……」



 俺の呟きに返事を返したのは、この世界を支配していた魔王『ルヴィリエ』であった。神に異世界へ転生され、魔王の討伐をすることとなった俺は、長い年月をかけ彼女やその配下の娘たちと戦ってきた。


 配下の者は倒すことに成功したものの、結局彼女とは死闘の果てに『相打ち』という形で終わることになったのだ。



「私も……もうじき、死ぬ……わ……。あなたとの日々……私は楽しかったわよ……」


「俺は……二度とごめんだけどな……」


「そう……こんな、出会いじゃ無ければ……私たちはきっと、良い友人に……なれていたのにね……」


「…………」



 ルヴィリエの言葉に、俺は無言で返答をする。

 声を出すのも辛いというのもあるが、俺自身それは考えていたことだったからだ。



「なら……神にでも祈っておけよ……俺はもう、寝る……か……ら……」


「えぇ……次は……逃がさない……わ……」



        ♢♢♢♢



 目を覚ますと、真っ白な空間。

 この景色はすでに二度目・・・だ。そもそも、こうなるのを望んだのも俺なのだから、今さら驚くことはない。



『二度目の人生、お疲れさまでした』



 頭の中に響く声。

 姿は見えないが、こうして頭の中に直接声を送り込んでくるのだ。

 それは紛れもない———もう随分前に、地球で死んだ俺を異世界に送り込んだの声だ。



「『お疲れ』どころじゃねぇよ。何回死にかけたと思ってんだ」


『けれど、死んだのは一回だけでしょう?』


「……お前さ、神じゃなくて本当は悪魔なんだろ?」


『いえいえ、私は神様ですよ』



 シレっと言い切る神様に、俺は眉を潜めて怪訝な表情を見せる。


 死んだ俺を訳も分からないまま言い包め、異世界に送り込んで戦わせるような奴だ。それを悪魔と言わずになんとする。



『あなたも結構乗り気でしたよね?』


「勝手に心を読むなよ……」


『私だけに責任があるみたいな言い方が心外でしたので』


「はぁ……で、俺の願いをかなえてくれるんだろ?」


『はい。私の望み通りに世界を救ってくれたあなたに、望むものをなんでも与えましょう。自分を神様にしろ、みたいな無茶な願いは叶えられませんが』


「そんなこと願う気はねぇよ。……俺はただ、次の人生は平和に生きたいだけだから」


『そんなものでいいのですか? 魔王を倒した力をそのままに、別の世界に行くこともできるのですよ? 無双できますよ?』


「いらんいらん。風呂もトイレもまともに無い世界は二度とごめんだね。勇者の力とか要らないから、日本に帰してくれ」


『本当にいいのですか? 異世界で培った力を一度手放してしまえば、後で戻すことはできませんよ?』


「いいんだって。平和に暮らせればそれでいい」


『そこまで言うのなら……ですが、せめて生きるのに苦労しないようにしてあげます。これは世界を救ったあなたへの、私からのお礼ですから。拒否はできませんよ』


「本当、そう言う強引なところが神様っぽいよ……分かったから、人間の常識の範囲内で頼むぞ」


『もちろんです。……本当にありがとうございました。では、あなたの次の人生が、幸福に満ちたものであることを願っています』



 神様のその言葉を最後に、俺の意識は徐々に薄れていく。



 こうして俺は、二度目の転生を経て再び元の世界へと戻ることになったのだった。

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