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それっきり、彼とは出会うことが無くって、夏休みのお盆の時、姉ちゃんが


「真織 花火 一緒に行かない? 史也がさー 浜でやる花火の時に庭でバーベキューやるから おいでよーって ねぇ ねぇ 浴衣着て行こうよー」


「ふ~ん 行かない ここの浜からでも見えるよー カイと見るの」


「あっ そう あのね 縦帯伊織利たておびいおり君も来るんだー 史也と同じ学校の 割と恰好良いんだよー 織藻でしょ 真織でしょ 伊織利って 似てない? なんか結ばれてるようなー」


「そんなの 偶然よー バッカみたい! っていうか 気色わるーぅぃ」


「ふ~ん つまんない子っ カイのウンコ ちゃんと面倒見るのよ!」


 そして、その日。姉ちゃんは浴衣を着せてもらって、お化粧もしていたみたい。


「真織も浴衣着るかい?」と、お母さんが言っていたけど、私はタンクトップに体操ジャージのハーフバンツだった。


「いいよー このままでー」


「そんなで 外に出たら 蚊に刺されるよー」


「いいの! スプレーするから」


「あっ 駅で伊織利君待ち合わせしてるんだー お母さん お化粧 バッチリ?」


「ええ 可愛いわよー」


 と、姉ちゃんは出て行ったけど、私はカイにブラッシングをしていて、ふと・・・駅で待ち合わせ? ・・・ええー もしかして と 。 伊織利君なんて 私 知らない人だ。だとしたらー あの人 と。私は、ブラシを投げ出して、駅に走った。


 だけど、電車はもう出たとこで・・・ドァのガラス越しに楽しそうに笑っている姉ちゃんと・・・確か・・・彼の陽焼けした横顔が見えていた。


 あーぁ 私ってバカなんだよねー 間が悪いんだよねー 昔からー 中学校の入学式の時も そう 急にお腹痛くなって 電車に乗り遅れて 式に遅れて 恥ずかしかった 終わっていたんだものー お母さんには嫌味を言われた。何で、姉ちゃんに誘われた時、素直に行くって言わなかったんだろうと、後悔しながら、カイと一緒に離れた花火を見ていたのだ。


 姉ちゃんが帰ってきた時、私は遠慮がちに聞いてみた


「楽しかった?」


「うん 肉も美味しかったし 伊織利君に家まで送ってきてもらったの あいつ 優しいんだよー まぁ ウチには史也が居るけどねー」


「えっ なんで 言ってくんないのよー」


「なにをー???」


「うっ まぁ その 伊織利君って 前から 居た?」


「中学の時 越してきたんだって それから明智学園 高校から史也と同級生で同じ方面だからって、仲良くなったらしいよ」


「ふ~ん 伊織利 苗字 なんだっけ?」


「えーとっ 縦帯 変な名前だよね どうして?」


「うっ まぁ 知らない人だなぁーって 家 山の方?」


「らしいよ 変な虫が多いんだって それに、熊、サル、鹿、狸なんかが時々、庭をうろうろしてるんだってー 大袈裟よねー」


 そんなこと言ったって、私は、ここに越してきた時、お母さんと30分程山を歩いて滝を見に行った時、側の岩の上から私を見詰めている猿が居たんだものー きっと私に襲い掛かるつもりだったんだわー それに、この前も、国道で大きな鹿が横たわってるのを見たんだからー 死んでるのに、眼は私を見てたの 姉ちゃんはノー天気なのよ。家と駅の行き帰りだけだから。


 でも、情報を仕入れられた。明智学園の高校2年生。縦帯伊織利。やや姉ちゃんの好みだけど、多分 姉ちゃんには史也君が居るから、競合はしていない。中学に入る時に、こっちに越してきた。それだけ!。肝心の彼女が居るのかどうかはわからないのだ。


 でも、手繰り寄せる糸の端は掴んだと思っていた。

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