美しく残酷な村で紡がれた真実の愛

冬の帳村と呼ばれる小さな村の妖精たちの庭と呼ばれる児童養護施設で新奈は育った。村の人々は雪が降ると全ての記憶を失ってしまう。そんな中でただ一人、新奈だけが記憶を失わなかった。

大切な人との時間が雪が降っただけで失われてしまう。その事実を知るのは自分だけ。その残酷な現実に死を願う程追い詰められる新奈。彼女を支えているのは、恋人である沙羅という女性だった。女同士で愛し合うということに多くの人が嫌悪の目を向けるが、二人の愛は揺るがない。

物語の序盤は新奈の悲しみが切々と語られ、非現実なおとぎ話のように展開していきます。けれど、村や施設の謎が少しずつ解明されるにつれ、物語を彩っていたパーツが繋がりSFファンタジーと姿を変えながら謎を解いていきます。

そこからは、肌がヒリヒリとするようなスリリングな展開です。

前半のゆったりとした展開から急展開を迎えるわけですが、違和感を感じないのは丁寧に配置された伏線の賜でしょう。それらが余りにも美しく配置されているので、読者は伏線だと気付かず、後半に驚かされることになります。

女性同士の愛も、百合ものを狙ったのかなと最初は思いましたがそうでは無いと気付きます。この物語では、彼女らは彼女らであり、その形で愛を育まなければならなかった。最後にそう、気付くことになります。

色んな展開を見せる物語ですが、一貫して美しく丁寧な描写で描かれているので安心してその世界に身を任せることが出来ました。

とても素晴しい物語でした。一読を!

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