第3話 統合戦術打撃任務群

西暦2035(令和17)年9月1日 日本国東京都港区


 お台場の一角に設けられた、一つの献花台。その目前には数基の石碑と、1両の16式機動戦闘車が安置されている。


「…遅かったな」


 その献花台の前で、石村はそう呟いて真横に視線を向ける。そこには一人の若い自衛官の姿。


 第三次世界大戦序盤の戦いとして知られる事となった『東京湾紛争』にて、1万のナローシア王国軍相手に粘り強く戦い抜いた石村は戦闘後、二階級特進。そして10年の歳月が経った今では、新たに編成された第16戦車連隊の隊長として勤めていた。


 戦後の国連平和維持部隊のナローシア進駐によって脅威は去ったと言えど、そのナローシアを原産とする巨怪は度々太平洋沿岸部に上陸して被害を与えてきており、さらに中国も戦中の混乱から何とか復帰し、来る台湾占領のための軍事力増強に邁進していた。


 そういった脅威に対応するべく、東部方面隊は新たに第16師団を設置。2個普通科連隊と1個戦車連隊を中心とした機械化歩兵師団は、その多くが古めかしい装軌式装甲車を移動手段としているが、先の大戦ではナローシア軍は魔法を用いて『タイヤ殺し』とも称される障害群を張り巡らした永久陣地で抵抗。装輪車を確実に行動不能にしてくる妨害で自衛隊を苦しめたため、『万が一の事態』を考慮して装軌式装甲車両を中心にした部隊を首都圏に配置したのだ。


 実際、戦後の伊豆半島周辺で発生した震災では、地震と土砂崩れでズタズタにされた道路を、高性能センサーで行方不明者を捜索しながら進む10式戦車や、瓦礫を踏み越えながら救助者を運ぶ27式装甲車は、保安省の手で『入れ替え』が行われた公共放送のニュースで大々的に喧伝された。


 かつて16式機動戦闘車を相棒に任務に従事して来た石村は、今では44両の10式戦車を率いる身であり、その『かつての相棒』は今、目前のモニュメントの一部となっている。過去であれば反戦団体が『軍靴の足音が聞こえる様な展示だ』と文句を上げていただろうが、それを言える者は夕張の拘置所で石炭を数えている有様である。


「…ここで生き残ったのは俺達とお前だけか。あの戦いでは敵味方合わせて2万人が死んだ。そしてコイツを盾にして生き残れた奴はお前だけだった。なのによく退役しなかったな」


 問いに、隣に立つ青年は無言を返す。しばらくの沈黙の後、彼は答える。


「…俺、やっぱり『例の部隊』に入るよ。今困っている人達を助けるために、戦場へ向かうんだろ?だったら今の俺で出来る事をするだけだ」


「そうか…俺も、そこに志願する事となった。ここで称賛と批難の嵐に揉まれているよりかはマシだろう」


・・・


首相官邸地下


「ではこれより、『統合戦術打撃任務群』についての説明を始めます」


 国家危機管理室の会議室にて、篠田しのだ統合幕僚長は宮部首相達を前に説明を始める。


「まず、この部隊は統合任務部隊JTFの発展型ともいうべきものであり、今回の大華国への派遣任務において二つ編制されます。一つは第16師団を中心にした陸戦部隊で、海上輸送群及び臨時徴発船によって陸自3個旅団と空自1個航空団を大華国西部地域に展開。もう一つは海自第1護衛隊群を中心に、水陸機動団の総戦力をエレジア大陸南部のバラト国へ展開し、現地の親大華勢力を支援します。食料に関してはイルスハイド王国臨時政府が負担するとの事です」


 大華とエレジア西部の国々の交流を難しくさせていた、広大な砂漠に派遣されるとあって、イルスハイドは魔法や現地のコネクションをフルで利用してサポートするという。またエレジア南部の国々にもベルディアとの戦争を恐れぬ勇敢な国があり、大華は援軍を出してその心意気に応えていた。


「燃料と弾薬に関しては、ナローシアの平和維持部隊向け支援工場とリードゥスの米軍駐留部隊より融通してもらう予定です。食料もイルスハイドが融通してくれるそうです。これらの支援を最大限活かすためにも、我らは戦果を上げねばなりません」


「…ここまでして、我らに戦争に参加してほしい世の中とは。全く、笑えない事だ」


 宮部はそう呟いた。

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