第18話 二人の再会 ②
「逃げ足の速い卑怯者め!」
「そう言わないでくれ、俺と一緒に行きたいって言ったのは、お前らのお姉さまだ」
亮が見上げながら言うと、葉月はベランダに寄りかかり、涙目になっている。
「お姉さま、どうして?いつも皇月には帰りたくないと、仰っておられたでしょう?」
「確かめたいことがあります。必ず無事に戻りますから。さ、亮くん、行きましょう」
向き直ると、二人の周囲には大勢のガードが集まっていた。銃や電撃警戒棒を持つガードたちに囲まれても、二人は動じない。
パズン!パズン!パズン!
亮の背後から、ガードたちが発砲を始めた。
電撃弾は肩に命中したが、亮のスーツには防弾機能が備わっているのだろう、痛みは全くなかった。さらに、攻撃を受けたことに反応し、スーツは自動的に青い光を展開した。直径3メートルにも渡る大きなバリアができると、それ以降の銃弾は全て弾かれ、亮に届くことはなかった。
「どうなってるんだ?」
「審判秘宝は攻撃を受けるとマナシールドを発生させると聞いたことがあります。それがこの現象でしょう」
「そうか、便利だな」
亮は優月を抱えたまま、脚力を使って跳びあがる。
ガードたちの間に動揺が走った。
「電撃弾が効いてない!!」
「ビーム銃はどうだ!?」
「ですが、優月お嬢さまがさらわれています。お嬢さまに当たったら……」
「優月お嬢さまにはあの力がある、平気だ。奴を止めるのが第一だ、撃て!」
「承知しました!」
ガードたちはビーム銃に持ち替え、発砲を続けた。
だが亮は攻撃を無視するように走り進み、外壁を飛び越えていく。
ガードたちの攻撃は一切無効化されていた。その時、ガードたちの無線に、加藤からの通信が入った。
「発砲を止めなさい」
「しかし、このままでは優月お嬢さまが……」
「皆さんの武器は、あの少年には効きません。お嬢さまは自分の判断で彼とともに行くのですから、信じましょう。お嬢さまの行方は追跡していますから、あとはわたくしにお任せください」
加藤の指示を聞いて、ガードたちは動揺した表情を浮かべた。
「それよりも、これから別の者たちからの襲撃があるかもしれません。皆さんは警備ランクをS級まで引き上げ、勇真さまとともに葉月お嬢さまと屋敷をしっかりと守ってください」
「了解しました!」
神宮寺家が警備の強化に努めはじめた頃、亮は優月を抱えたまま、本牧山の丘にある住宅地の屋根を飛び移っていた。
澄んだ夜空に、月の光が強く輝いている。空には星が少ない代わりに、家々の明かりが地上の星座のように光っていた。
スーツには身体能力を強化する効果もある。数十分、優月を抱えて走り続けていたが、まだ体力的な苦痛は感じていない。それどころか、優月の重さは全く負担になっていなかった。発泡スチロールのキューブでも運んでいるように感じる。
優月は落とされないように両手で亮の首を抱き、進行方向を眺めている。
前方を見る亮の顔を見上げ、優月は大人しく運ばれながら訊いた。
「亮くん、私たちは何処に行くんでしょうか?」
「根岸森林公園だ。そこが合流ポイントになってる」
「森林公園はこの方向ではありませんよ?」
「ん?俺は来た方向に戻ってきただけだけどな……」
「私の部屋は北西向きです。このまま行くと都心に向かって山を下りることになりますよ」
「マジか、屋敷を出る時にちゃんと確認するべきだったな」
10年ぶりの再会だというのに、少し恥ずかしいところを見せてしまい、亮は赤面した。亮はMPディバイスで方向を確認したかったが、両手は
「私が案内しますよ」
「ああ、頼む」
「では、あちらへ。方向修正していきましょう」
優月は右手で亮の左側を指差した。
言われたとおりに進んでいく亮が、とある一軒家の屋上に着地して進行方向を変えようとした時、遠い場所で黒煙の上がっているのが見えた。空には雲が少なく、余計に煙が目立って見える。
月明かりに照らされて、煙が立ち上るのを見ながら、亮は眉をひそめた。
「火事か?」
優月も険しい表情をしている。
「嫌な予感ですね……」
二人は煙の方へとさらに前進する。そして、亮が先に異常に気付いた。煙は建物から上がっているのではない。電気もあまりないような、暗がりの中から上がっている。
「おい……森林公園からか?」
「亮くん、急いでください」
亮が着地のタイミングで力を入れて踏ん張ると、光るブーツのブースター機能が働き、より高く跳びあがった。一度の動作で移動できる距離が長くなり、さらに高速で公園へと駆けていく。
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