第15話 神宮寺邸の侵入 ①
深夜22:00を過ぎた。
澄んだ夜空には少し膨らんだ月が浮かび、銀色の光が屋敷の外垣に差している。
大理石のブロックを組み立てて作られた堅牢な外垣には、電流の流れる鉄のフェンスが聳えていた。近くに立つと、垣はその終わりが見えないほど長く続いている。正面のフェンスゲートを外から見ると、500メートル程先に洋館が見えた。ちょうど、巡回中のガードが通り過ぎる。
屋敷の三階の一室で、胸元に
キッチンではエプロンを着た葉月がクッキーを作っている、透明のボウルに、ゴムベラを使って材料をミックスしていた。
勇真はちょうど入浴中で、温水プールのように広い湯船に浸かっている。細身だが、良質な筋肉の付いた体をゆったりと休めていた。
それは、神宮寺家にとって日常の一コマに過ぎなかった。
いつも通りの夜になるはずだったその日、屋敷から500ヤード離れた住宅地の一本の道、誰もいないその道に、
科学研究者の父は、母が亡き後は以前にも増して研究漬けの日々を送っている。家に帰ってくるのは大抵、日が変わって午前2時から3時頃だ。夕食を食べるのもほとんど一人の亮が、夜遅くに外へ出ることを咎める者はいない。
亮はひゅっと息を吸い、気を引き締める。そして、
その瞬間、マナが爆発的な光を巻き起こした。導引コアから現れた、謎の金属でできた布が亮の体を包み込む。全身にフィットしたスーツが装着され、導引コア自体も胴部の装甲に変化し、脚にはブーツが嵌め込まれた。左腕の装甲にもマナが流れ込み、起動する。紡錘形の盾に施されたギミックも展開し、先端には砲口ができた。
「上手く起動したみたいだな。さて、作戦を始めるか」
亮は自分を激励するように言うと走り出した。ブーツの機能を生かすと、通常の10倍の跳躍力が得られる。その力を使い、軽々と10階建てのアパートの屋上に跳びあがると、神宮寺家の屋敷全体を眺めた。
亮は左腕を前に伸ばした。装甲が宙に映し出す円形の幕が、銃砲の照準機能のように、神宮寺邸の敷地内を拡大して見せる。前庭にも後庭にも制服を着たガードたちが、絶えずパトロールに当たっている。ざっと数えたところ、16名のガードがいた。情報通りの厳重な警備体制だ。
腕をわずかに動かし、今度は屋敷の三階を投影する。
ターゲットの少女は、ノースリーブのカジュアルなワンピースを着て、両手にはフルートを持っている。何やら楽曲を奏でているらしい。
彼女の顔が一瞬、窓の方を向いた。その表情には、軟禁された身の悲しみやつらさ、絶望などの感情は全く見えず、優雅さやゆったりと寛いだ様子だけが現れている。
「……変だな、話とイメージが合わない」
実験台とは思えないゆとりのある様子を見て違和感に気付きながらも、亮はとにかく優月を神宮寺邸から救い出すことだけを考えようと決めた。
「後のことは、救出してから考えるか」
亮は屋敷の東側に立っている。状況を確認すると、決断は早かった。腕を伸ばし、西側のフランス庭を狙う。マナのエネルギーを砲口に集め、射出する。マナの弾は、蒼い流星のように屋敷の上空を越え、照準通りに西側のフランス庭に当たると、爆発を起こした。
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