異世界大航海

yoshi30

転生~幼年期 第1話


1.初めての神社で覚醒


“どごぉぉぉぉぉん”


 火山の噴火だろうか、轟く轟音と共に、聳え立つ巨大な山の頂上から真っ赤な溶岩と上空を覆う程の黒煙が吹き上がりその中では無数の火山雷が不気味に光っている。噴煙のはるか上空には青色と赤色の二つの満ちた双月が淡く輝いている。


「俺は黄泉の国に行き噴火を止めてくる。もう手加減は無しだ。お前はこれを持っていけ。何かの役に立つだろう」

「それはありがたい。大事に使わせてもらうよ。俺も今回こそ、双月を元に戻してくる。お前は必ず戻って、姉さんと仲直りするんだぞ。死ぬなよ」

「ああ、分かった。お前も死ぬなよ」



◇ ◇ ◇ ◇



それは突然始まった。


眩しいけれど暖かな光の奔流につつまれ、かつて地球という惑星で生まれ育ち、学生生活を送り、社会人として働き、定年退職を2年後に控え、定年後の人生について悶々と考える男の記憶が頭の中に流れ込んできた。

やがて記憶の流入が収まる頃、女性の煌々しい声が聞こえた。


〈この世界への転生を無事に成し遂げたことを寿ぎ、そなたに我が加護を授けよう。ひとつおまけも付けておく。悔いのない人生を送るのだ。加護の恩恵のスキルは、それを得た者の努力によって如何様にも効力を発揮する。想像せよ。精進せよ。スキルはお主と共にある〉


その言葉の終わりと同時に、光の奔流が徐々にどこかに消え去る。直後、俺の脳裏に〈ピコーン〉と電子的な音が鳴り、続いて


〈ベザイテーンの加護を得ました。成長に補正がかかります。『鑑定』のスキルを取得しました。『鑑定』が使えます〉

機械的なアナウンスが俺の脳裏に響いた。


(いったいなんのこっちゃ?『鑑定』ってまさかラノベのやつ?)


かなり動揺しているが一旦落ち着こう。まず深呼吸だな。

「スッ、ハッ????」


(呼吸が浅い。もう一度)


「スッ、ブウッ」


(何がおきている?それになぜか声が出にくいな、手も足も力が入らない、おしりからは何か出てしまったようだが、う〇チか……いきなり事案じゃないか、恥ずかしい)


「あら、シンバお目目が覚めたようね。お参り中もおとなしくできてえらいでちゅね。あなた、シンバが目覚めたようだから、どこかで一休みしませんか?おっぱいと、おしめも交換したいし」

「そうか、お宮参りも無事に終えたし、参道のお茶屋さんにでも寄ろう。ナオもカズッチャもお腹がすいただろ。あそこのお茶屋さんはみたらし団子がうまいんだぞぉ」

「わーい。お腹すいた~お団子、お団子~」

「私は桜餅がいい~」

若く張りのある女性の声と落ち着いた男性の声と幼子達の会話が身近に聞こえた。

それはまるで俺を含めた家族のような会話であった。



今、俺は母親と思われる女性から授乳されている。授乳だよ?授乳。パンパンに張ったあれからコクコクと。味は……まあいいか。

その隣では5歳前後と思われる女の子と、3歳前後と思われる男の子と、父親と思われる男が団子をうまそうに食べている。三人とも口の周りはあんこやみたらしでベタベタだ。俺に授乳している女性も含め、4人とも黒髪、黒目だ。ここは日本なのか?日本人だよな?言葉は日本語として理解できてるし。


ただ、着物を着ている。所謂洋服じゃなくて、左右を合わせる和服だ。お宮参りに来ているから今だけなのか?それにしては着古去れてる感じ満々だが……あ、髪型、曲げとか結ってないな、ゴリゴリの江戸時代じゃないみたいだ、文明も明治位?少し安心なのか?


光の奔流からの一連の出来事を振り返る。俺はなぜか乳児。黒髪黒目の親子。前世?の記憶では、30数年勤め上げた会社の定年カウントダウンに入り、再雇用もなんだかな~なんて思って、第三の人生を気ままに過ごし、小説投稿サイトでオリジナル作品を創作して投稿するのもいいかな~と、なぜかPC購入して立ち上げて……前世の記憶はここまでだった。死んだ自覚もない。


俺がなぜ転生したのか分からない。神様は加護をくれてすぐ去った。転生理由の説明もない。なんかのスキルを貰っただけだ。そうだ、鑑定だ。どう使うのか?まぁいろいろやってみれば分かるだろう。


「『バァブ』」

(なにも変化なしだな)


「『バァブ』」

(何も変化なし。あ、そうか『鑑定』対象を認識しないと。目の前のおっぱいでいいか。


「『バァブ』」


2回目までは何も起こらなかったが3回目に狙いを付けて『鑑定』と唱えた時、脳裏に何かが浮かんだ気がしたが、急激な眠気に襲われ俺は意識を手放した。



平成の営業マンは現状をまず受け入れるのだ。そうしないと先に進めないからな。おっぱい呑んで、おしめを替えられながらだけど。


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