南野・山姥殺人事件

森 三治郎

第1話 連続放火事件


 めらめらと燃え上がる炎が、瞳に写し出されていた。原始の記憶か、背徳か、それとも復讐なのか判らないが、燃え上がる炎とともに脳内ドーパミンが噴出され異様な高揚感に包まれた。



南野消防団本部


「また、放火があったんだってぇ」


僕、南原 哲哉は、南能市消防団本部の駐車場にたむろする団員たちに尋ねた。


「ああ、今度で3件目だ」


「幸いなことに、ボヤで済んだみたいだな」


「ああ、そうらしい」


「みんな、整列してくれ」


野見山 芳樹団長が皆に整列を促した。


「5名か、今日欠席の者にはメールで知らせておく。知っての通り、今、南野市で放火が多発している。警察、消防署からも協力要請があった。もちろん、協力は惜しまないと言っておいたから。各自、大変だろうが協力をお願いする。

そこで、11時から2時の巡回警戒を皆に頼みたい。各班を中心に予定表を作ってみた」


各自にプリントされた用紙が渡された。




南野警察署 3月12日、会議室


「また、放火があった。3件目だぞ~」


ボードに貼られた地図に、3件目のマークが付けられた。


「目撃情報はどうなっている。もう3件目だぞう。有力情報が出て来ても、良さそうと思うがな」


捜査会議を主導しているのは、遠藤課長だ。署長、管理官と居並ぶ幹部連中はシブい顔をしている。


「なにぶん、事件発生が12時から1時の深夜帯でして、殆どの人が寝入っている時間帯です。目撃情報は、殆どと言って無い状態です」


鈴木が答えた。


「監視カメラはどうなっている」


「現在分析を急いでおります」


岩瀬係長が答えた。


「放火現場の朝日地区だけでなく、もっと範囲を広げて、そして前のあけぼの地区案件のものとも照らし合わせて、重なる車を見つけるんだ。犯人は、車を使っているに違いないからな」


「はい」


「鑑識は・・・・・」




MBSテレビ南野支局


「朝のニュース枠に、放火事件入れます~」


「了解しました~」






南野市山添やまぞえ地区の教会



 シスターあおいは朝のお祈りを済ますと、違和感を感じ何気に外を見た。


『黒っぽい、ボロが落ちている』いつの間にか、あんなゴミが・・・・・。


外に出てみた。良く見ると、ゴミだと思ったのは人だった。人間が倒れていたのだ。


「もし、どうなされました」


「うう・・・・・」


揺さぶると、反応があった。『生きている』仰向けに転がすと、ひげ面に蓬髪の青白い顔が現れた。意外と若い。





3月20日、南原 哲哉


 僕は、猪瀬川河畔公園に来た。久しぶりの休日、気分転換だ。ここのところ仕事が立て込んで忙しかった。


「タマ~、待ってぇ~。待ちなさい~」


遠くで叫び声がした。声の方角から、犬がリードを引きずって走って来る。チワワだった。

僕の脇を走り抜ける時に、僕はリードを踏んづけた。


「ありがとうございます」


タマを追っていた女性が、ようやく追いついた。はあはあ、ぜいぜい言っている。喘ぐ女性って、意外と色っぽい。


「向こうの角で、いきなりイノシシと出くわしたの。それで、驚いたのでしょう」


「へぇ~、イノシシと。そりゃ~驚くでしょう。僕だって驚きますよ」


「そうですよね。だけど、犬だったら、かなわぬまでも私を守って欲しかったな~」


「無茶ですよ~、あははは、だけど僕だったらあなたを守ってあげますよ~」


「うふ、ホントですか~」


僕とチワワを抱いた彼女とは、しばらく同じ道を歩いた。




南野消防団 3月23日


「また、ボヤがあったんだってぇ」


沢田さんが居たので、聞いてみた。


「ああ、放火らしい。発見が早かったから、ボヤで済んだみたいだね」


「まったく、春先はおかしな奴等が出て来るからなぁ~」


「なあ、伝達が終わったら山姥やまんばに行ってみないか」


「何です、その山姥とは」


「バーだよ。山姥バー。行けば解る」




山姥バー


 それは、北山地区にひっそりとあった。今時、珍しい茅葺かやぶき屋根の家だ。元農家の家を利用したらしい。地味で目立たない『山姥』の行灯あんどんがあった。

引き戸を開けると「いらっしゃい~」と若やいだ声がして「ぎょっ!」とした。


薄暗い室内にベートーヴェンみたいな髪型のピンクの髪、黒い顔、異様に長いまつ毛、白いアイシャドウ、白い唇、婆さんじゃなく山姥ギャルだった。


絶滅危惧種だ。最近見ないと思ったら、こんなところで生息してたんだ。


「こちらでいいですか。どうぞ~」


案内されたテーブル席は、粗末な木のイス4脚と木目の浮いた骨董品みたいな少し低めの木の机。普通のバーとは趣が少し違っている。


「飲み物は何にしますぅ~」


「俺、ビール」


「俺も」


山姥ギャルはカウンターに注文を伝えた。


「は~い」


カウンターの内に居たのは、白い髪、灰色の着物を着た本物の婆さんだった。


山姥ギャルはやけにひらひらとフリルの付いた、ネグリジェかなと思わせる白っぽいワンピースを着ていた。膝から下の白い生足が、妙になまめかしい。


「仕事の帰り・・・・・、何してんの、そうエライね、家は、家族は、車は・・・・・」


山姥ギャルは意外とフレンドリーで、聞き上手だった。


「チワワの美女が、気になって気になって仕方がない」


僕は、『あれ⁉』と思うことまで話していた。


・・・・・と、突然「予言します」と、山姥ギャルは姿勢を正し右手を上げた。


「3月25日、午後3時、猪瀬川河畔公園に行けば、南原さんはチワワの美女に会えるでしょう」


山姥ギャルは、妙におごそかに宣言した。


「へぇ~、君は予言者か~、神通力があるんだ~」


「えへん」






3月25日、予言は的中した。


僕は、山口 晴菜さんの電話番号とメルアドをゲットした。


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