気がついた。

 損傷確認。

 右の肚から下。脚のあたりまで。丸々、穴が開いている。


『よく2年も逃げたよ』


 通信。食われてない。そうか。彼女は。


『まだ間に合う。戻ってこいよ。私の貴重な話し相手を、ひとり減らしたくない』


「ありがとう」


 体重の感じが、おかしい。動くのに、必要な、重みが。ない。はいずって、よろよろと立ち上がろうとして。


「でも、ごめんよ」


 倒れた。そうだった。右脚がない。


「彼女は」


 名前も、知らない。心に化物を抑えて。わたしと2年間逃げた。わたしの心を食って、心を獲得した。わたしの。彼女は。


「彼女は」


 通信先。沈黙。


『25センチメートル先。左。二の腕から先だけ残ってる』


 言われた通り、左に手を伸ばす。右側じゃなくてよかった。手を伸ばすだけでいい。


 何かが、当たる。


「これか?」


『それだよ』


 最後に残った。彼女の残骸。これしかのこってない。


 手を繋ぐ。


「これだけでよかったのに」


 手を繋いで。一緒にいるだけで。よかったのに。


 もう少し、生きていたかった。

 そういう感想が出て来るのが、不思議だった。あれだけしにたかったのに。彼女と一緒なら、生きていたくなる。


「もう少し、一緒にいたかったね」


 誰に話しかけているのだろう。わたし自身か。わたしが、わたしを、ねぎらっている。不思議な感じ。すべての終わりの、ふわふわとした満足感。


『くそが』


 肚の穴が。埋められていく。脚。まだある。


 彼女は。


 いる。


 腕の先。


 ある。


『行け。この座標だ。今からお前らは、この街に行け』


 座標。郊外の、よく知らない街。


「ここに?」


『俺達の組織も手が出せない、化物だらけの街だ。行って帰ってきたやつはひとりもいない。行くなら、そこしかない』


「そっか。ありがとう」


 彼女を抱き抱えて、立ち上がる。ふらふらする。肚の底に力をいれて、耐える。


『これで俺も追われる身だ。いずれその街に俺も行くことになるよ』


「いいね。女3人で暮らそっか」


『それはいいな』


 歩き始める。ゆっくりと。

 終わりの街に向かって。




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