お盆の午後の昼寝の話

デリカテッセン38

前編

[1]

 一大事である。

 2月22日は「猫の日」なのだそうである。

 夜中の10時過ぎに、カクヨムでそんな事を言われたって!


 という訳で、大分古い話である。

 世間にまだ残っていたバブルの余韻が、関西で起こった大地震と、東京で起こった大事件で吹き飛んだ頃である。

 都心で3年程、便利に暮らした私は、ふと見上げた空の狭さに恐怖し、友人に誘われるがまま郊外へ引っ越したのだった。

 東京の都心は暑かった! 古い木造アパートでは暑さで寝れない夜が幾度もあって、私は、地球が温暖化していると確信したものだったよ。今から四半世紀以上も前ですけどね。

 でも、私が転居した郊外の木造長屋は、住宅地のはずれにあって、庭先から向こうは一面の畑だった。

 そう、独身者だった私がたまたま見つけて入居したのは、庭付きの借家だったのだ。

 庭向こうの畑には、しばしば、1羽のオス雉が、2羽のメス雉を従えて、悠々と歩いていたものだった(連中は、一夫多妻なのだ)。

 外灯は、我が家の手前の路地までしかなく、日が暮れれば、我が家より先の畑中の小径は真っ暗だった。

 怖かった。

 私は、会社から帰って夕食を済ますと、外に出て、その真っ暗闇の小径を、怖くて仕方がないから「歩こう、歩こう、わたしは元気~♬」と声を出して歌いながら、散歩したものだった。いや、ほんと、猫バスくらい走っていても不思議はないくらい茫漠たる夜闇だったよ。


 夏は、過ごせた!

 東京ではあったものの、周りは畑で、地面は土である。

 地球温暖化も、まだ、郊外では手ぬるかった。

 暑い昼下がりでも、引き戸を開けていれば、風が通り抜けて行った。


 そんな夏の午後の事だった。

 会社は夏休みで、何となく家にいた私は、4畳半間でごろごろ寝ころんでいたのだが、その内にうつらうつらしてしまった。

 そうして、ふと気づくと、体が動かなくなっていた。


 都心のアパートにいた頃、金縛りには幾度も遭った。

 それは恐ろしい感じで、胸の上に何者かが乗っている様で、ありありと相手の気配が感じられた。

 私は、恐ろしくて、気づかないふり寝てるふりでやり過ごしていた。


 ところが、その時のは、そういう胸を圧する重苦しさや恐ろしさは、少しもなかった。

 ただ、ぱたぱたぱたと、小さな動物が、自分の周囲を駆け回る気配と足音がした。

 「あれ?」と思った。

 引き戸が開いてたから、隣の飼い猫が入って来たか?

 でも、隣の猫は、図体の大きな老猫で、無邪気に走り回る歳ではない。

 とにかく、これは起きねばと思い、「えいや!」と掛け声して、目を開いて体を起こした。

 部屋には、何もいなかった。

 そうして、私は思い出した。

 その日がお盆だった事、そして、気がつく前に、実家で飼っていた猫の夢を見ていた事を。

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