第30話 あれはヤベー奴!

「こんにちは!今日からよろしくお願いします!」

 魔法少女サクラが裏口から笑顔で入ってきた。

「あら、本当に来たのね。」

 私がつっけんどんな態度で声を出す。

「咲子さん……これから認めてもらえるように頑張ります!」

「そ。」

 ………怪人の情報を聞くのは良いが、なんでまた咲子ちゃんにならなきゃいかんのだか………



「桜ちゃん、似合ってるわ!」

 魔法少女サクラが着替えて出てくると、貴族が嬉しそうに魔法少女サクラに抱き付く。

「わわ!?あ、ありがとうございます。」

「紅ちゃん、仕事。」

 私が貴族に声をかけると、舌を出して…

「ごめんね、咲子ちゃん?」

 ……猫被りやがって、ムカつくなぁ。


「んっんん!桜ちゃん!」

「は、はい!」

「あなたには配膳をしてもらいます。咲子ちゃんは注文とレジ打ちで。」

「了解しました!」

「任せて。」

 な~にが任せて、だよ。自分は能力を使って生成した飲み物を優雅に出してるだけのくせに。

 ……あ、言っておくが身体に害はない。ニューワールド日本支部のサンドバッ……しなやかなドMマッチョの戦闘員Kが試飲していた。……え?逆に貶してる?………事実だからしゃーないやん。




 カランコロン

「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ。」

 開店時間となりお客さんがちらほらやってきた。

 今現在三組の人が来ているが、私が初めてここで働いた時と同じ人かつ、同じ時間帯にやって来ている。こういう店は常連がのんびりする場所というイメージがあった為別に構わないが、少し気になることがある。

 最初に来た三人組の男性達。少し視線があれだね。男の私が気付いてるのだから、貴族と魔法少女サクラもとっくに分かっているだろう。


 「ベニ。六番の……」

 「気にしないで、いつもの事よ。」

 「……マジか。」

 「ふ、実害はないわ。私の美貌に見惚れるのはしょ

  うがないもの。」

 「…そうか、戻る。」

 「えぇ、心配してくれてありがとう。」


 何事も無いと良いんだがな。








 私の心配は杞憂だったようで、何事も無く店を閉めた。

「桜ちゃん、バイト初日お疲れ様。どうだった?」

「楽しかったです。」

 魔法少女サクラが嬉しそうに話す。

「それじゃあ、打ち上げに行こー!」

「「え?」」

「何ボサッとしてるのよ!桜ちゃん、咲子ちゃん。」

「わ、分かりました!」

「ふ、いいわよ。」

 そこで、怪人についての情報収集ってわけか。

 店の片付けや戸締まりを終え三人で外に出る。

「さあ、行きましょう。」

「それで、どこ行くわけ?紅ちゃん。」

「私行きつけの個室の店があるから、そこでゆっくり話しましょ。桜ちゃんは夜どれくらいまでなら大丈夫?」

「そうですね………九時までなら?」

 意外と長いな。親は魔法少女だって知ってるのかな?

「おぉ、いいわね。でも明日も営業あるからほどほどね。」

「そうですね。」

 そう言って、貴族に二人でついていく。魔法少女サクラとは若干距離をとっておいた。私が魔法少女サクラの方を向いてないから、あっちも話しかけようとは思わないだろう。





 暫く歩いてから貴族の横に向かい、耳許で店を出てからすぐに感じたことを小さく呟く。

「つけられてる。」

「そうね。」

「サクラは?」

「気付いてないわね。」

「どうする?」

「このまま向かう。でも警戒はしておいて。」

「だな。」

 小声での会話を終え、私は魔法少女サクラの隣を歩く。


「あれ?咲子ちゃんどうしたの?」

「フン!あんたが暇そうにしてたから私が話しかけてあげに来たのよ!」

「っ!嬉しいです!お話しましょう!」

 一応つけている誰かが不明なため、不意討ちの警戒をする。魔法少女といっても変身する前はただの少女だ。我々ニューワールドのように力を抑えてるわけではないからな。

 ……でも、このキャラキツいな。やめたいけどやめられないよなぁ。

 適当にツンデレボイスを出しながら歩く。


「あ、ここの公園よく遊んでました。咲子さんはどうでしたか?」

「私?悪いけど不特定多数の大人数と一緒にいるのは嫌いなの。だからそんな…っ!」

「ひゃ!?」

 私が話している途中で、後ろの何かの気配に気付き、魔法少女サクラを自分に寄せるように手を引く。


「あなた、いつも来てくれる方ね?そんな無粋なダンスのお誘いじゃ、誰も応じてくれないわよ?」

 丁度公園の近くだったからか、灯りがたくさんあり、顔の判別がついた。

「ミスった……」

 その男はそう呟くと手で顔を覆いながらガタガタと震えだす。

「あぁ…あぁ…どうしよう……」


「どうしたの?……あなた、確か斎木さん。何があったの?」

 貴族が異変に気付き駆け寄ると、不審者の名前を告げて私に尋ねる。

「後ろからサクラに抱き付こうとしたのよ。」

「えぇ!?」

 すると公園の方から声が聞こえた。


「チッ、やっぱアイツじゃダメだったか。」

「一時間も待たせて、このザマかよ。しゃーねぇ俺たちも動くか。」

 その声の二人も常連の、あの嫌な目線を向ける三人組だった。

「安西さんに、小路さん?三人揃って何ですか?」

「いやぁ、マスター。俺達あんたの店の常連だろ?それも開店の初日から。だからそろそろ、他のサービスも……なんてね。」

「何年も顔合わせてたんだ。もう、俺達は付き合ってると言っても過言じゃないだろ?」

 うっわ、拗らせ中年クソヤローが三人飛び出してきたんだが!?

 今の内に魔法少女サクラと一緒に貴族の傍に行っておこう。


「そんなことは致しません。酔ってらっしゃるのですか?」

 貴族は気丈に振る舞う。

「かぁー!そういって実は致したいんじゃないの?」

「酔ってるわけないじゃん。マスターはじっくり素面で楽しみたいからさ。」

「俺達三人とも初めてだから、さ……いいよね?」


 強烈だぁ……上から自己中、変態、言動不明の欲張り三点セットか。男の俺でも流石に引くわ。そりゃ魔法少女サクラは可愛い、貴族もあまり褒めたくはないが見た目だけは上品で美しい。狙われるのも分かる気がする。


「意味が分かりません!いい加減にしないと警察を呼びますよ!」


「くく、アッハハ!そんなこと出来るわけ無いじゃん。俺達だって馬鹿じゃない。」

 そう言うと、三人はそれぞれカッコつけながら動く。

 自己中安西はズボンのベルトを華麗に外す。

 変態小路は上着を徐に脱ぐ。

 言動不明斎木は髪を揺らしながらメガネを取る。


 すると、どこかで既視感のある黒いオーラを其々が触った物から出て、全身を覆う。

 そして出てきたのは怪人の姿をしていた。

 ここで気付いたが、怪人はベースが同じで其々が使った物は怪人の状態では残るらしい。意味の無いベルトや、やけにカラフルな上着を着ているのはそのせいだろう。

「っ!?怪人!」

 魔法少女サクラが驚愕しながら声を張り上げる。


「俺は新人のサクラちゃんかなぁ。」

「やっぱり初志貫徹のマスターだな!」

「俺はスレンダーな咲子ちゃん。」

 おえぇぇ、俺も入ってんのかよ!


「咲子ちゃん!」

「了解!サクラ、行くよ!」

 私は魔法少女サクラを引っ張りながら走り出す。

「え!?いえ、私は戦います!」

「うるさい!」

「ひえ!?」

「あんたが魔法少女だろうがそうじゃないかなんて今はどうでも良いの!あんたはまだ子供なの!あんな奴らの近くに居ちゃ駄目!大人に任せなさい!」

「いえ、でも……」

「でもじゃない!」

 正直、魔法少女が戦ってくれる方が助かるが、あれは流石に駄目だ。未来ある少女の精神にダメージが残りかねない。



 とりあえず、出来るだけ走りながら魔法少女に救援要請をした。

「緊急です!前にニュースでやっていた怪人が三体出ました!私の知り合いが囮になっています!詳しい場所は━━━」

 暫くして返答が来た。

『………検討しましたが、救援には一時間は掛かります。』

「え?」

『申し訳ありません。なにぶん対応が完全では無いのです。それでは失礼します。』

 プッ

 

「ど、どうしよう!咲子さん!一時間もだよ!?」

「………待つしかないわね。」

 まさか、国でどうするか議論中とかそんな感じか?ここは貴族に頑張ってもらうか。

「それじゃあ紅さんが!」

「割り切りなさい。」

 私が強めの発言をすると魔法少女サクラが下を向いて、自身の服の裾を掴む。

「っ!……………………嫌です。」

「あんた。」

「咲子さんの気持ちは嬉しいです。でも私は紅さんを助けます!私は……魔法少女だから!

 彼方に願いを!」

「うっ……」


 眩い光が消えると魔法少女サクラは目の前からいなくなっていた。

 ……………貴族、身バレしたら知らんぷりするから言い訳考えとけよ!

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