第5話 再会
2049年 3月
数日後、Rayから待ち合わせの連絡があり、私達は東京の外れにある小さな公園で会う事になった。
その日も気温は50度を超えていたが、たまに吹く強い風が少しだけ心地よく感じられた。
この時代は、至る所に高層ビルが建っており、俗にいう「ビル風」はかなり暑い熱風となり、すごい勢いで体を通り抜ける。その熱風の生暖かさに体がふわっと浮きそうな感覚になるが、私はそのふわっとした感じで体が浮きそうになる感覚が嫌いではなかった。そう・・・私の夢は鳥のように飛ぶ事・・・だから。
_________
私は以前から、この時代にしては珍しくファッションに興味があった。
そんな事もあり、この日も大好きなブランドの服を着てRayと会う事に。
待ち合わせに指定されていた公園に置かれてあるベンチを見つけると、その三つあるベンチの真ん中に座る。
こじんまりとした公園にはベンチが3つ、ブランコが2つ、象の形をした滑り台が主を待つかの如く静かに佇んでいる。まさしくよくある公園のデザインだった。
ただ狭い公園ではあったが、周りには高さのある壁が道路と公園をきちんと区別して仕切る事で、意外と周りからは目に付かなそうな場所だった。
Rayと約束していたベンチの指定席で待つ事数分。。
相変わらず外には人通りもほとんどなく、公園近くの駅からここまで歩いてくるまでにも数人ほどしかすれ違わないような状況だ。
公園入口から細面の以前会った時と変わらないRayの姿がひょいっと現れた。
Rayのファッションはと言えば、初めて会った時と変わらず、昔の大学生ファッションのようなカジュアルではあるがファッションにはあまり興味がないように見て取れる服装。もちろん、お互いにプロテクターを装着して会っている為、素顔ははっきりとは確認出来ないが、「EP」から覗く彼の眼はあまり大きくはない事がプロテクター越しでもわかった。
「ごめん、待たせたね」と、か細い声でRayが声を掛けてくる。
「いや、大丈夫、さっき着いたばかり」
お互いに淡々と言葉を交わす。
「IDブレスでメッセージのやり取りをするにはちょっとどうかな?という感じの話だったから」と物静かに話すRay
「だよね。そうかな?と思った」
IDブレスを通してのメッセージのやり取りは、政府に筒抜けになる可能性がある為、何かあるとすぐにその軌跡を辿られてしまうからだ。
「でも、なんで僕なんかに?」
この時代に他人に相談する事なんて滅多にないから気にはなる。
しかも出会ったばかりの人間にするとなると尚更だ。
「いや、だって、いきなりこの間、声を掛けてくれたから。今時、声を掛けてくる人ってほとんどいないから。勝手に・・・もしかしたら自分の事を話せるかな?と思って」
「確かに、変だよね。声を掛けるなんて・・・。僕も久し振りに知らない人に声を掛けたよ。」
ちょっとずつ緊張が解れていくのを感じる。
それにしてもIDブレスで出来ないような話、聞いて大丈夫なものなのか?
もしかしてこんな大人しそうなRayは、かなり危険な人物だったりとか??
いやいや、そんなまさか・・・。
と、怪訝なそうな顔をしている私を見てRayが静かに聞いてきた。
「一つ・・・質問していいかな?」
「うん、別に、答えられる事なら・・・。」と、恐る恐る返事をする。
「いや、あの・・・。」
勇気を振り絞り話そうとするRayの口からは、なかなか言葉が出てこない。
私はなんだかRayの話を聞くのが不安になってくる・・なんだろう??そこまでなかなか言い出せない話って・・。
それから数分、Rayは天を仰いだり、かと思えば足元にある土を靴先でいじり始めたりと、かなり落ち着きのないような仕草を始める。
(大丈夫かな??)と、不安になった僕から咄嗟に声が出る・・。
「あ、あの、話しずらかったら話さなくても大丈夫・・・。」
と、どちらかというと既に聞くのが怖くなっている自分の本心が出てしまう。
「あ、ごめん、なかなか・・・ね。」と、少し慌てた様子で手を合わせるRay。
「こういう話を、会ったばかりの人に話すのって勇気いるよね・・・。でも・・・
一つ聞いていいかな?」
と、話す決意をしたかのように、Rayは軽く頷きながらひと呼吸おいて尋ねてきた。
「なんで・・・政府下で働いていないのかな?と、気になって。何となく自分で選んでその道を選んだのかな?と思ったというか・・・。」
「あ、その事か・・・。そうだよね。適正テストに落ちたから?とか、そういう事だよね・・・」
自分としても本当の事を話していいのか、少し戸惑ってしまう。
「Rayもそうだよね。同じく政府下では働いてないもんね。僕はコンビニだけど、Rayは・・・何してるの?」
「僕は今は何もしていない・・・。ちょっとやる事があって・・・。でもSORA君は?」
「はは、SORAで良いよ。君はつけなくて・・・」
ちょっとしたRayの優しい話し方が少しだけ面白く感じられた。
「あ、じゃ、SORA・・・。実は僕は兄貴や仲間と一緒に政府の今の「国民管理体制」に反対しているんだ。だから皆で何か出来ないかな?と思って活動をしているんだけど、もしSORAが同じような考えだったら、一緒に出来る事ないかな?と思って。」
聞いた瞬間、少し背中がぞわっとした。
正直、この時代に政府に関しての話はかなり危険でもあり、なかなかその同志を見つけるのも容易い事ではないからだ。
____
そして紛れもなく私も・・・・反政府の人間だからこそ、その言葉を聞いて驚きを隠せなかった。
少し驚き、返事を躊躇っていると___
「あ、ごめん!!こんな話ダメだよね・・・。本当にごめんなさい!忘れて下さい!何でも無いです!冗談です!」
と、慌てて少しお道化た様な様子でRayが手を左右に大きく振りながら、自分の話した事を無かったかのように頭を何度も下げた。
「いや、Ray・・・・。まさかこんな所で反政府の人と会えるなんて思ってもみなかったから・・・だから少し驚いて・・・。」
Rayはとにかく手を振り続け、自分の話した事は全て冗談でしたとも言わんばかりの動きを続けている。
その動きが私にはがなんだかとても可笑しく滑稽に見えた。
その面白さ故、暫く答えるのが勿体なく、その動きを眺めていた。
「Ray、実は・・僕もそうなんだ・・・。反政府なんだよ。」
と、返す私の言葉を聞いて、びっくりしたような様子のRayの動きが一瞬止まる。
暫くの沈黙の後、
「・・・・・・・・・・」
「え・・え!!え!!!!!、本当に???SORA!!!」
「うわーーーーーー!!!まじかーーーー!!」
と、最初の登場からは想像出来ないくらいの姿で喜びを爆発させるRay。
人間の忘れていた「感情」を目の前で見た事で、なんだか自分にも少しだけ「感情」が芽生えてくるのを感じた・・・。
「という事は適正テストは・・・?」と聞いてくるRayに、
「うん、わざと落ちた。でも、僕の場合は政府下ではとにかく働きたくない、という想いからだけど」と、少しだけ嘘をついた。
「でも、適正テストの不正はそう簡単ではないよ。SORA、君もその簡単じゃない不正を行って?落ちたの??」
「うん・・・、そうなるか・・な?」
政府により埋め込まれたマイクロチップにより適正テストの不正はかなり難しく、自らの意思でどうこう出来るものではない。
それなりの能力がない限り不正は難しい・・・という事は、このRayも同じように不正により適正テストをすり抜けたのだと私は感じた。
それにしても・・・「兄貴」や「仲間」と言ってたけど兄貴ってこの間の「粛清」で亡くなった??あの兄貴??と頭の中をその時の光景がよぎる。
「排除」されたのがあの兄貴だとしたら、相当な事をしているはずだと瞬時に感じた。
もしそうだとしたら、Ray達はかなり危険な所まで政府に入り込もうとしているのか??むしろそっちの方が私には気になって仕方なくなっていた。
聞いて後戻り出来ない事になったらどうしよう?という一抹の不安が・・・
Rayって一体、何者なの・・・・か・・・?
目の前にはただただ嬉しそうにしているRayの姿があった。
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