Sky in the raindrop

第1話 ープロローグー 静寂

珍しく今日は雨が降っている。

どの位ぶりだろう。

地球温暖化により日本は平均気温も高くなり

いつしか雨もほとんど降らなくなった。

２０５０年＿＿＿４月＿＿

春と言っていいのだろうか・・・。

両親から聞いていた日本の「四季」の話。

感じる事は出来ないが、想像だけしてみても今の日本には有り得ない光景だ。

「桜」「さくら」「サクラ」・・・。

写真で見たその花はとても雄大でかつ短い期間しか咲かなかったそうだ。

私の名前は・・・「SORA」。

名前は自分で勝手につけている。

実際は「03892154732100・・・・」という番号のみ。

そう、国民は皆それぞれに与えられた番号で管理されている。

いつからか政府にとっては、人の「名前」というものは意味を成さないものとなったのだ。

２０４０年から始まった「国民統制法」により、政府は国民全員の首元にマイクロチップを埋め込み、全てがそのマイクロチップにより管理されるようになった。

まるで飼い主のいないペットのように。

ー自分で番号を覚える必要もないー

実際、ほとんどの人は自分の番号を覚えてもいないし、知ろうともしない。

何処にいても何処を歩いていても、全てが政府に筒抜けなのだ。

両親から聞いていた本物の「お金」も写真でしか見た事がない。

全ての事が首に埋め込まれたマイクロチップによって出来る時代になった。

物を買うにもお店の出口を通過すればいいだけ。

電車に乗るにも、バスに乗るにも・・・。

便利？楽？と言えば簡単だが、より人と人との接触をなくす事となった。

これって「人」なのか？

少しでも人間らしくいたいという想いで、私のように名前を付けている人達もいる。

もちろん名前なんて付けていない人の方が多いが。

他人との接触が減る事によって、人の中の感情が・・・両親が育ってきた時代ともかなり違うと思う。

無理して表情を作る必要もない。

無理して話を合わせる必要もない。

無理して・・・。言葉にして上げればキリがないくらいだ。

そんな時代だが、私は昔から空を見上げるのが好きだった。

今では日本の空はドローンの世界となりつつある。

見掛けなくなった鳥を、いつかは見てみたいと思い時々空を眺める。

いつか鳥のように空を飛んでみたい。

優雅に飛ぶ鳥のように。

だから私の名前は「SORA」。

そんな鳥を抱きかかえる「空」。

そんな「空」から今日は雨が降ってきた。

顔にかかる雨粒が時折、頬を伝って落ちていく。

「感じる」事の嬉しさを久し振りに味わった日だった。

目の中に入ってきた雨粒から見える「空」は、不思議な模様となり私の心に「喜び」を与えてくれる。

屋上の床から跳ね返る水模様が、今日は特に踊って見えた＿＿＿。

今はただ、この「空虚感」を感じるだけ・・・。