第20話 初恋は!初恋はいつなんですか?


「美心、あのパン屋でバイトしてんの?」

六月の初め廊下でばったり会った健斗に突然聞かれた。

健斗とは掃除場所が変わってからバッタリと合わなくなったし、話す事も無くなった。

クラスが違えば普段会う事もない、それに一度告白して断った関係、所詮そんな物だと思っていたのに・・

比奈と尚が私の隣にいるのに関わらず健斗は話かけてくる。

「どうして知ってるの?」

「サッカー部の友達がさ、昨日部活の帰りに美心がパン屋

のキッチンカーの前で立ってるの見たって言っててさ」

私は先週からお店の移動販売の仕事も手伝う様になった。

「そっか・・実は四月から始めたんだ」

「美心がバイトしてんの珍しいな」

「それ、みんなにも言われたよ・・」

そろそろ、比奈と尚の視線が気になる。

「ごめん、授業あるから、行こ!」

私は健斗の話を強引に切り上げる。

教室に向かう途中、二人に何度も健斗の事を聞かれた。

「健斗、まだ美心の事好きなんじゃないの?」と二人はニヤけて私に囁く。

仮にそうだとしても、私は健斗の事は好きじゃない・・ハズだ。


「笑美さんは今、彼氏いないんですか?」

日曜日、移動販売で安曇野の方を訪れている最中私はふと笑美さんに聞いてしまった。

「え、突然だね!・・今は見てわかる通り恋愛してる余裕はないかな・・」

二週間前の地震の時から私は笑美さんのリストカットの事をずっと気にかけていた、しかし直接聞くのもデリケートな問題で難しかった。

それに笑美さんはいつも頑なに自分の事をあまり話してくれない。

まえ笑美さんは「私と同じ様に生きる意味がわからない、死にたいと思った時期がある」と私に言った。

この出来事が笑美さんのリストカットに関係しているのか・・

だからこそ遠回りでも構わない笑美さんの事を少しでも知りたかった。

「笑美さんは綺麗だから学生時代モテモテでしたよね?」

「も〜お世辞はやめてよー美心ちゃん!誰かと付き合ったのはそれこそ大学の頃に一度だけだよ」

「え〜以外〜じゃあ!初恋は!初恋はいつなんですか?」

「初恋は・・・」

笑美さんは一瞬苦しそうな顔を見せた、ほんの一瞬だけど・・・そしてハンドルを握っている両手は微かに震えていた。

「うーん、随分前だから忘れちゃったなー」

「そうなんですか・・・」

笑美さんを見て私は言葉が出てこなかった、何か踏み込んじゃいけないような・・心のストッパーを感じてしまった。

笑美さんのあの苦しそうな顔、手の震えはこの前の地震の時と酷く似ていた。


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