第11話

「天宮さん天宮さん」


 天界からのポータルからとてててっと小走りでやってきた天使様は、ぼくを見つけると嬉しそうにそう呼びかけてきた。天使様はぼくに対して随分と気安くなってきた。一緒に仕事する上で良い傾向だ。


「きょ、今日は天宮さんにお渡ししたいものがあります」


「はい、なんでしょう?」


「これです」


 そういって天使様はぼくに濃い青色の縦長8面体を見せてきた。手のひらサイズで、淡く光っている。8面体の中には天界のアイテムに特徴的なエンブレムがうっすらと浮かび上がっている。


「こ、これは、臨時ポータルと呼ばれるものです。天界で購入申請していたものがや、やっと届きました」


「臨時ポータル?」


「はい。だ、だいたい、持ち運びできるぽ、ポータルと思ってもらってかまいません」


「へぇ、そんなものがあるんですね」


「わ、私は今まできょ、教会堂にあるポータルにしか出現できませんでしたが、こっこれを使えば任意の場所に出現することができます」


「便利そうですね。それをぼくが持ってればいいんですか?」


「そ、そうです。できればつっ常に携帯していて欲しいのです」


 天使様が言うにはこういうことらしい。今までは例えばぼくが一人の時に偶然悪霊に出会った場合は、ルルちゃんに牽制してもらいながら逃げることしかできなかった。そんな時にこれを使えば天使様がボクの居る場所にすぐさま出現できて、悪霊を退治できる可能性がある、と。


 ほかにも、人間で混雑した場所を超えて向こう側に行きたい時は、まずぼくが一人で向こう側に行って、その後で臨時ポータルを使えば、天使様でも無事移動ができる、などの使い方が考えられるらしい。


「す、スポーンしたい時はスマホでれっ連絡を取り合いましょう。どうですか、おっお願いできますか?」


「もちろんいいですよ。これで仕事もさらに捗りそうですね」


「ふひひ……ではきょ今日の12時に早速試しに使ってみましょう。天宮さんが昼休みにすっ空いている場所で連絡をください。わ、私がそこにスポーンします」


「わかりました。でもなんで学校なんですか?」


「いえ、たっ単に私が興味があるだけです。天宮さんの通っている学校をいっ一度みてみたいなぁと」


「あまり面白みのあるところではないとは思いますが、いいですよ。早速やってみましょう」


「ふひ……」




 その日の昼休み、ぼくは高校の中庭の片隅で臨時ポータルを片手に天使様に連絡をとった。まわりには人が全くいないためここで大丈夫だろう。


 連絡を取り終えるとすぐに臨時ポータルが光り輝き、ふわっと天使様が現れた。


「ふぅ……せ、成功ですね」


「はい、無事に使えましたね」


「移動する時もふっ普通のポータルと同じ感覚でふっ負担はなさそうです。良かったです」


 そう言う天使様の片手にはバスケットが握られていた。


「じ、時間があったので簡単にサンドイッチを作ってみました。ち、昼食がまだなら、いっ一緒にたべませんか」


「いいんですか?ありがとうございます」


 ぼくらは中庭のベンチに並んで座ってサンドイッチを食べることにした。食パンを使ったもので、たまごペーストが挟まっている。なかなかおいしい。最初に料理を作って貰った時は不安しかなかったが、段々と安心して任せられるようになってきた。


「い、いい天気ですね。こ、こうやって昼間の屋外で天宮さんと一緒にいられるのははっ初めてですね」


 太陽光を片手で眩しそうに遮りながら、天使様は嬉しそうにそう言った。ボサボサの金髪が太陽光のもとではキラキラしてとても綺麗に見える。


「人混みのせいで昼間は出かけられませんでしたからね、天使様は。これからは一緒に出かける機会も増えるかもしれませんね」


「ふひひ……しょ、食事も終わったことですし、もしよければがっ学校を案内してもらえませんか?す、空いているところだけで良いので」


「ええ、いいですよ。屋外中心になると思いますが、まずはこの中庭をぐるっと見ていきましょうか」


「あ、ありがとうございます。えへへ、た、楽しいですね」


 早速ぼくらは中庭を歩きはじめた。天使様に喜んでもらえて良かった。他の場所にもお出かけすることを考えてみよう。

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